31人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな面白い内容は自分の中からは出てこない――考えれば考えるほどに、久留美は何も喋れなかった。
『ルミちゃーん』
しぃちゃんの声が聴こえてきた。防音ガラスで隔てられ直接の声は届かないようになっているが、こうしてヘッドホンの中には届くのだ。
『聴いてくれる人に、今、伝えたいことを、喋ってみようよ。ルミちゃんが伝えたいことでいいよ。聴いた人がどう感じるかは、10人の色だよ!』
うん、それは十人十色だね――収録中なので口には出さなかったが、久留美は少し力が抜けた。
そうだ。面白いことは喋れない。でも喋らなければ、それすらも永久に伝わらない。何も伝えなければ、何も知ってもらえない。
――どうしてお母さんを困らせるの!?
他人に迷惑をかけないように、怒らせたり困らせたりしないように――ずっと、そう考えてきた。そのためには『無難にやる』こと、言い方を変えれば『特別なことはしないこと』が正解に近かった。
――お母さんの言う通りにやればいいのに、どうしてそれができないの?
でも、それはもうやめるんだ。自分の大切なものは、自分にしか分からないのだから。
「私は、ラジオは初心者です」
久留美はマイクに向かって話し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!