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「佳兄、何て?」
二人きりになって、アツが口を開いた。
「・・・何でもない」
首を横に振るので精一杯。
「そう」
アツが悲しそうな表情を浮かべた。
ごめんね、アツ。
嘘ついたのバレバレだよね。
ちゃんと顔も見れないんだもの。
僕の心情を察してか、アツは、それ以上詮索する事はしなかった。
「アツそうだ!制服と教科書とかどうしよう」
この重苦しい空気を何とか変えようと、わざと明るく振る舞った。
「教科書は、理兄と、頼兄が、2年の後輩に譲ってもらえないか、聞いてもらってる。制服や、ジャージ、カバンは、寺田がすでに手配したから、明日の夕方までには何とか揃うと思うよ」
「アツ、ありがとう。ゴメンね」
「いちいち謝らなくていいよ。他に必要なものは、あとで、買いに行こう」
「うん」
気が付けば、いつもの彼に戻っていた。
はにかむような、アツの優しい笑顔を見るのが大好き。
夕方近くになり、風が急に出てきた。
日中の過ごしやすい陽気と比べると、少し、肌寒い。
「雅枝さん手伝います?」
パタパタと、スリッパの音を鳴らしながら、台所へ向かった。
アツのうちには、何度も来てるから、家政婦さんの、雅枝さんとはすっかり顔馴染みになった。
勤続20年の大ベテラン。
一人で、この大きいおうちを掃除したり、家族の衣食住の面倒すべてみてる。すごいひと。
人当たりも良くて、よその子である僕に、対して、アツと同じように接してくれるから彼女の事も勿論すき。
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