1917人が本棚に入れています
本棚に追加
/273ページ
目は血走っていて、かなり興奮しているのか意味不明な言葉を喚き散らしながら、一歩ずつ、ゆっくりと近付いてきた。恐怖のあまり、その場から動けず、声も出せない僕の代わりに、先生が廊下にいるアツと佳大さんを大きな声で呼んだ。
「未央‼」
駆け込んで来た二人が僕を守るため、父の前に立ち塞がった。
「可愛い息子を返して欲しいだけだ・・・邪魔するな・・・」
父はポケットから折り畳み式のサバイバルナイフを取り出すと、何ら躊躇する事なく自らの腹部を刺した。
「う、そ・・・」
呆然自失となり、頭がくらくらしてきた。
(自分を傷付けてまでどうしてそんなに固執するの?)
ぽたぽたと血が滴り落ちるナイフを引き抜くと、
「未央、お父さんと一緒なら寂しくないだろう。お母さんの所に行こうか?」
そう言いながら、アツと佳大さんを鬼の形相で睨み付け、じりじりと寄ってきた。
「アツ‼俺が盾になる‼未央を連れて、先生と先に行け‼」
「佳兄を置いていける訳ないだろが」
アツも、佳大さんも父と刺し違える覚悟を固めていた。
「未央様‼」
先生の声は外まで響いたのだろう。寺田さんとヒーリーさんが飛び込んできた。
「佳大様、篤人様、すぐに未央様をお車に。急いで下さい‼」
「ミオ、イソゲ‼」
二人は毅然として、父の前に丸腰で向かっていった。
「未央、行こう」
アツと佳大さんが体を起こしてくれて、二人に支えて貰いながら、洗面所を出て大急ぎで玄関に向かった。
「元気な赤ちゃんを産んで帰ってくるのよ。ここは、未央ちゃん の家なんだからね」
「お祖母ちゃん、ありがとう・・・お祖父ちゃん、父をお願い・・・」
「あぁ、任せておけ」
二人に頭を下げ父の事を頼み、車に乗り込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!