第1章

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 一人残された海野はゆっくりと部屋を見回した。  少し傾いたテーブル、ガラスのない窓、石を積んだ暖炉。前は台所とリビングだけの場所だったが、今はさらに部屋を増やしたのか、二つ扉ができている。  暖炉には火が入れられているが、開け放たれた窓があっては、風の冷たさの方が勝っていた。  今回生まれた家は今までの中では比較的悪い部類に入った。太ももや二の腕には痣ができているし、体重も少ない。  いつも通りに『思い出して』いれば、高校に入る前に家を出ただろう。  今回は高校を卒業して就職するまで、思い出すことができずに、余計な気苦労を強いられた。  おまけに、十分な体力がないせいもあり、危うくイノシシに殺されるところだった。  何度生きなおしても、いつの時代にも面倒ごとはが程度あることは、変わりなかった。 「待たせたね。よい、しょ」  一時間ほどで戻ってきた佐竹はイノシシとその子供を、半ば引きずるようにして家に入ってきた。  彼がイノシシをおろすと、反動でテーブルが僅かに跳ね上がった。  血抜きまで済ませてきたのか、先ほど見た時より少し縮んだように見える。 「野生動物に襲われるなんて。私も滅多にないよ」 「二度とごめんよ。今度から、迎えに来てくれるかしら?」 「伝書バトでもよこしてくれれば、迎えに行ってあげるよ」  佐竹はつる草で縛っていたイノシシの胴体をほどき、中から内臓をいくつか取り出し、テーブルに並べた。 「結構な大物だ。これだけでも、二週間くらいは生活できるかな」  佐竹は大人の体を台所まで引きずっていき、皮を剥ぎにかかった。  慣れた手つきで、手作りらしい石の包丁を使って皮に切れ込みを入れ、肉から皮を剥ぎ取っていく。  皮下脂肪で白く包まれた肉の塊から、皮と一緒に頭部が転がり落ちた。先ほど佐竹が殴った時に、折れたのだろう。 「見た目によらず、強いのね」 「まあね。一時期は卜伝って名前でもいたくらいだから」  佐竹は落ちた頭部を拾い、改めて頭部に包丁を入れ始めた。砕けた骨の破片か、頭部が揺れる度に、破片が白くパラパラ床板の隙間に落ちていった。 「初耳ね。私と会う前かしら?」 「そう。君と初めて会ったのが、生まれてから大体四百年前後だから、その百年前くらいかな」 「その頃だと、ほとんど記憶にないわね。物心つく前に死ぬことも多かったし」
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