第1章

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「やあ、おかえり。今回はかなり早いね。前は確か……」  佐竹は椅子を軋ませて立ち上がり、訪ねてきた少女の前に立った。顎に手を当て、天井を見つめて首を傾げる。 「……確か、十三年前?」 「そうね。正確には十三年と――」  二か月二十四日。そう付け加えて、海野は椅子に腰を下ろして足を組んだ。 「そんなに派手に動かすと、白いパンツが見えるよ」 「何をいまさら。それに、今日は薄いピンクよ」  ほら、とスカートの端を持ち上げて見せる。 「本当だ。リボン付きか。君にしては、少女趣味だね」 「この子の親がね。四十近くにもなって、参観日に桜色のワンピースを着てくるくらいだから」  海野はセーラー服のスカートの裾を離し、軽くひだをならした。学校からそのまま来たのか、あるいは少女趣味の服が嫌だったのか。おそらくは後者だろうと、佐竹は見ていた。 「それで、薬は前回と同じでいいかい?」 「ええ。今までで一番の出来よ。寝ている間に全部終わるし、苦しくて起きることもなかった」  佐竹は棚から笹の葉の包みを五つ取り出した。それぞれを落とさないように指に挟み、台の上に並べた。 「それはなにより。まあ、君以外の人に感想を聞くことはないだろうけどね」  佐竹はそれぞれの包みをほどき、別の葉を一枚テーブルへ置いた。慣れた手つきで古びた計量器の上に葉を置き、一つずつ笹の葉に包まれていた粉を乗せていく。 「おっと……まあ、いいか」 「聞こえてるわよ」 「大丈夫だよ。トリカブトが少し多く入っただけだから」  佐竹は振り返ることなく軽く手を振ってから、薬を笹の葉で包み、口を植物の茎で縛る。  海野も大して興味がないのか、ずっと窓の外に広がる落ち葉を眺めているだけだった。 「それで、今日はどうする?」  できたばかりの薬を手の上で跳ねさせながら、佐竹はゆっくりと振り返った。石造りの暖炉にくべられていた薪が、小さく爆ぜる。 「なにが?」 「泊まっていくか、ってことだよ」  海野は傾いた陽光に目を細め、顔の前に手をかざした。  壁の位置を切り抜いただけの窓からの景色は、十三年前とも三十二年前とも変わらず、そこに広がっている。  乾いて積もった落ち葉も、その下の豊かな土も。海野の見る窓からの景色は、佐竹がここに住むようになってから変わらないように見えた。 「これから夜の森を歩いて帰るほど、酔狂じゃないわよ」
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