第1章

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「アクはもう取ってあるよ。煎ってもおいしいけど、茹でた方がお腹も膨れるからね」  枝を切り取ったような節のある棒で鍋を軽くかき回し、蓋を乗せる。  佐竹が作業をする間に、海野はかまどの辺りに視線を往復させた。そこにあるのは、土器の鍋、石の包丁、水瓶が二つ、木の実の詰まった一抱え程の箱二段、乾燥した草を編んだタワシ。食材はドングリと木の実しか見当たらない 「本当に木の実だけで生きてるのね。即身仏にでもなるつもりかしら?」 「量を集めるのが簡単だからね。ちゃんと贅沢品もあるよ。せっかくだから、取ってこようか?」  信じられない、というように目を細めている海野を残して佐竹は外に出た。  ドングリの鍋に小さな泡ができ始めるころ、佐竹は手に付いた泥を落としながら、取ってきた獲物を顔と並べて見せた。 「贅沢っていうのかしらね。おいしいのは知っているけれど」  佐竹は掘り出してきたらしい、顔と同サイズのカエルをまな板に置いた。カエルは冬眠を妨害されたことへの抗議か、まな板の上で不機嫌そうに泥のついた体を動かした。 「最後の食事かもしれないし、多少贅沢な方がいいだろうからね」  包丁で頭を落としてから、腹の辺りの皮を切り、そこから皮をはぐ。内臓を取り出し、腹の中を洗って一口サイズに切り分ける。  乾燥した何かの草をカエル肉と一緒にドングリの鍋へ落とし、岩塩を包丁で削り入れて、蓋を閉めて体感で五分ほど煮込む。  蓋を開けてカエルの肉に十分に火が通ったことを確認し、海野を振り返って笑って見せた。 「よし、いいよ。カエル肉と野草のスープと煮込みドングリ」 「豪勢ね。涙が出そうなくらい」 「それは良かった」  ため息をつく海野に気分を害した様子を見せず、佐竹は微笑んだまま二人分の食器に料理を取り分けた。少しぐらつく木のテーブルに料理を運び、もう一度岩塩を削り入れる。  海野はスープに浮かぶ正体の分からない野草を箸でつまみ上げた。口に入れ、しばらく口の中で味を確かめる。 「タンポポの葉とヨモギね。こんな食事は、何年ぶりかしらね」 「君には懐かしい味だろう? 食べられるだけいいって時代は、よく食べていたから」  佐竹はよく煮込まれたドングリを食べながら、首を傾げた。 「ところで、今度は何で死にたくなったんだい?」 「別に。この子、生理がきついみたいだから」
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