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「そうだね。近くの村で君の噂をしてる人もいたよ。働いてもいないのに着物やら、いろいろと持ってくる、ってね」
火があれば煙が立つのは避けられない。人殺しがばれなくとも、人通りが減れば『商売』に支障がでる。
そうでなくとも、ろくに働けない障害者が色々と物を持ち込んでくれば、町の人間の目にもつく。生まれた土地から一歩も出ずに一生を終える人々も多い時代のことだ。その土地に住めなくなれば、生きていく道は少ない。
日が完全に落ち、部屋の中にもゆっくりと冷気が染み込んでくる。
佐竹は料理の際に燃え残った薪を暖炉に移した。火の粉が明るく舞い散り、床に落ちて黒く灰に戻る。
「そろそろ寝よう。これ以上起きていても、何も見えないからね」
「そうね。布団は二人寝られるのかしら?」
海野は持っていたマッチを擦って、部屋の中を見渡した。揺らめく光に照らされて、佐竹が部屋の隅を指さす。
海野が藁の山だと思っていたものの上で、机の影が僅かに揺れる。
「あら、素敵。馬小屋みたいね」
「ああ見えて、結構寝心地がいいんだよ。温かいし」
佐竹は海野を手招きして、藁の山の中ほどを持ち上げた。ぼそぼそとした音を立てて、かけ布団代わりの藁束の下に、ゆるく編まれた藁が現れる。
「さあ、どうぞ。その前に、火は消してね」
「分かってるわよ。火だるまになって死ぬ気はないわ」
海野はマッチを吹き消して、燃えカスを暖炉に投げ入れた。
藁は肌触りがいいとは言えないが、思っていたよりも柔らかく、寝心地も悪くなかった。
「結局、君はあの時代で何人殺したんだい?」
藁の間に潜り込み、体に乗せた藁を直してから、佐竹は暗闇越しに海野の顔を覗き込んだ。
「さあ、覚えてないわ」
「珍しいね。記憶力のいい君が」
海野が鼻で笑う気配が、佐竹の鼻先をくすぐった。
「そんなもの、途中からいちいち数えないでしょ?」
「まあ、そんなものかもね」
二人の間に下りた沈黙を境に、目を覚ました夜の物音が静かに二人を取り囲んだ。
風にそよぐ葉擦れの音も、野生動物の足音も息遣いも、時折訪れる静寂に夜が軋む音も、二人にとってはなじみ深く、身近なものだった。
何度目かで天井を木の実が叩いたとき、海野が寝返りを打って佐竹に身を寄せた。
「ねえ、今晩はどうするの?」
首だけで振り向いて、佐竹は首を傾げた。
「どうするって?」
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