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病院と思っていた建物は、やはり病院で、その白さに日光が激しく反射して目が痛かった。
車は通っていない。
人の声もしない。
蝉がうるさい。
私はただ呆然と、歩みを前に進めていた。
廃墟の街にしては割れた窓ガラスもない。むしろ綺麗だった。道路脇には草が茂り、もはや道路に侵入してきていた。
目線をあげると、近くに大きなドーム状の建物が見えた。歩みの先にあったので、一握の希望を持って、向かうことにした。
しかし、それにしても蝉の声しかしない。
あまり蝉の声を意識して聞いたことは無かったが、じっくり聞いてみると色々な蝉がいることがわかる。
ただ、名前は知らない…、
私はどこで蝉の声を聞いたのだ?
そういえば、と思うほど手ですくった砂のように記憶がこぼれ落ちていく。
(まあいいや)
ドーム状の建物は、大きかった。
大きいからこそ、近くに見えたのか…と今になって後悔する。なかなか近づかない。
足の疲れは無かったので、そのまま歩くことにした。
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