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 その店は意外な場所にあった。  以前から気にはなっていたが、今日こそは訪ねてみよう、と瑠璃子(るりこ)は慣れない地図アプリを操作しながら、店を探して自転車でうろうろしていたときのことだった。 (こんなところに……)  瑠璃子は大きく息を吐くと、自転車を降り、しばらく店の前を行きつ戻りつした。彼女はいつも、買い物に電動アシスト付き自転車を利用しており、今日も隣の市まで自転車で20分かけて来ていた。  昨年、一人娘の夏海(なつみ)が結婚して家を離れて以来、瑠璃子は元気がない。何をしても虚しい。何を食べても美味しくない。体調も今ひとつ。 これが世間でよく言う「空の巣症候群(からのすしょうこうぐん)」というものか、と思うのだが、実はもっと瑠璃子の気持ちを暗くさせるのは、今や唯一の話し相手となった夫と話すことが苦痛だったことだ。  夫の勝彦は瑠璃子と同い年。二人は今年52歳になった。「新人類」と言われた世代だが、勝彦は大学を出てからずっと同じ会社に勤めており、入社してすぐにバブルが弾け、さらにリーマンショックや何やかやと、日本が不況にあえいでいた頃もリストラの対象とはならず、なんとか持ちこたえて踏ん張ってきた。
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