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おそらく独り言をぶつぶつ言ってしまっていたのだろうが、自分の心を読まれたのか、と一瞬不安になるほど、店主とおぼしき青年は神秘的な雰囲気をまとっている。 「そうでした、アンビバレンサ。どういう意味なんですか?」  瑠璃子は、気まずさを振り払うように明るく言った。 「イタリア語で両面価値という意味なんです」 「両面価値。聞いたことないなあ」 「心理学用語の二律背反と同じ意味です。例えば、同じ物に対して愛と憎しみを同時に抱くという。僕はそこまで深い意味は込めてなくて、『物』ってある人には不要だけど、ある人には必要ってことはありますよね、それで」 「なるほど、それで両面価値なんですね」  なんとなくだが、彼の意図が分かった気もした。  そんな会話を交わしながら、実のところ、瑠璃子は青年の顔に見とれていた。彼は今風に言うと、小顔のイケメンだ。顔の造作が彫刻刀で彫ったようにくっきりして、睫毛が長い。白いシャツとジーンズという素っ気ない服装が、かえって彼の美しさを際立たせていた。
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