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「ごめんなさい、勝手に入ってきて。色々見せてもらっていいかしら?」  瑠璃子はどぎまぎしていたが、若い男に対して別によこしまな気持ちを抱いているわけではないのだから、と意識しすぎたせいか、強めに言ってしまった。 「どうぞ、どうぞ。僕はちょっと店内を掃除していますので。お気になさらず、ごゆっくり」  青年は、その近寄りがたいような美しさとは反比例するように気安く答える。  瑠璃子は彼から離れ、店の入り口に一番近い棚から見ていくことにした。驚いたことに、瑠璃子の実家で使われていたものばかり並んでいる。花模様の琺瑯の鍋、紺地に白の水玉模様の湯呑み、ピエール・カルダンのグラス。極め付けは、瑠璃子のお気に入りだったキャラクター茶碗。 (どうして……どうしてこんなに私の思い出の品ばかり並んでいるの)  次第に冷や汗が出てきた。この朱色のポップアップトースターも、翡翠色のポットも見覚えがある。うちで使っていたものだ。いや、当時どこの家でも使われていた大量生産の品よ、驚くことじゃない。しかし、このビニールのテーブルクロスといい、調味料入れといい、何もかも、自分が小学生の頃に実家で使われていたのと同じものに見える。瑠璃子は目を上げて近くの棚を見た時、思わず息を飲んだ。
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