2/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
彼にはそういう自負があるのだろう、結婚と同時に会社を辞めて、傍目にはのほほんと主婦業に専念しているように見える瑠璃子を軽んじている傾向は以前からあった。しかし、(そう思われても仕方ないわ、私って本当にのんびりしてるんだもの)と、瑠璃子の方も、夫に舐められる生活にいつしか慣れて、自分を低く見て来たように思う。  夫の転勤に付き従って、おもに西日本だけであったが色々な街で暮らし、それなりに人づきあいに苦労もしたし、パートに出たりもしたが、どこか不安で所在なげな(たたず)まいを周囲(まわり)に見せていたと思う。それが周囲(まわり)から軽んじられる原因だとわかっていたが、生まれ持った性質ゆえか、そうした振る舞いを正すことは出来なかった。  娘の夏海は夫似のせいか、そんな瑠璃子に苛々していた時期もあったようだが、長じるにつれて瑠璃子の強い味方となり、話し相手となってくれていた。 その夏海は、就職して二年目に、かねてから交際していた学生時代の先輩と昨秋、半年前に結婚して、家を出てしまっていた。  夏海夫婦が住んでいるマンションは、同じ私鉄で十分とかからない場所にあり、会社帰りに、ふらりと立ち寄ってくれたりするのだが、『これから部署が繁忙期に入るのでしばらく来れない』と、瑠璃子は夏海から先週言われたばかりだった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!