雑音

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 まだ嫌な噂が流れていなかった頃、美奈は人気者だった。都会から来たあか抜けた見た目の女の子。それを変に鼻にかけることのないさっぱりとした性格をしているから、男女問わず皆に好かれていた。別の学年の男子がわざわざ顔を見るために教室に来たこともあったくらいだ。  それが今では、腫れ物に触るみたいな扱いになった。誰も積極的に話しかけない、遠巻きにひそひそと噂をする。一挙一動を監視され、少しでも変なことをすれば、そこに尾が付き(ひれ)が付き、瞬く間に学校中に広がっていく。  当初は憧れの的だったおしゃれな服装も、今では揶揄される要素の一つだ。  『この街であんな服着て、どういうつもりなんだろうね。目立ちたいんでしょ、きっと。ていうか、似合ってないよね』  うるさいな。どんな服を着ようが個人の自由だし、目立ちたがるような性格でもないだろ。何より、美奈の選ぶ服は本当にセンスが良くて、彼女に良く似合っていて……ほれぼれする。  こんな閉鎖的な街でなければ、彼女はクラスの中心にいたんだろうなと思う。 「夏休みって暇だねー」 「宿題とか、色々あるだろ」 「もうほとんど終わっちゃったよ」 「まじか。今度数学のやつ見せて」 「えー、どうしよっかなー」 「頼むよ……。知ってるだろ、僕の成績。まともにやったんじゃ絶対終わんない」 「んー」  じゃぁ見せるんじゃなくて、教えてあげるならいいよ。と彼女は笑って言った。  それだと写すより時間かかるんだけど……と思ったけれど、美奈の言わんとするところも分かったので、承諾した。  会う場所、どこにしようかな。家に呼んだら、母さんはいい顔しないだろうし、かといって美奈の家は絶対に無理。図書館も人が多いし、人の目を気にしながらやるのも鬱陶しいしな……。
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