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『西城さんのとこの娘さんとは関わらない方がいいよ』『お前、なんで西城なんかと昼飯一緒に食ってんの?』『あんた、美奈さんと仲良いんだって? こういう事言いたくないけど……あんまり関わり持たないで欲しいなぁ』
あぁ、もう……うるさいな。ごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるさいんだよ。
誰と関わろうが僕の勝手だろ? お前らだって最初は美奈のこと好きだったじゃないか。それが寄ってたかって、手のひら返して、はみ出るのが怖いから、みんなして同じ方向向いて同じこと言って……気持ち悪いんだよ。
「美奈」
「ん、なに?」
「やっぱり川、入りなよ」
数拍置いて、美奈は言った。
「だめ、お洋服汚したら、お父さん怒るから。買ってくれてるの、お父さんだし」
「……あ、そ」
そういう返答がくるのは分かっていたはずなのに、僕は無性にいらついた。
あぁ分かってる。分かってるさ。
いくら仲が良くたって、美奈と僕の間には、この川の流れみたいな隔たりがあるんだ。
同じ空間を共有していたって、僕は川に飛び込めるけど、美奈は川辺から動けない。
耳元で流れるせせらぎの音が、急に大きくなった気がした。
「――は、―――――なの?」
美奈の声が、聞こえなくなる。
昔、さらさらざーざーとなるこの音の正体が知りたくて、調べたことがある。川の水が川底にある岩や石に当たったり、こすれたりするのが原因らしい。
これも同じだなと思った。
色んなものに当たった雑音が、僕らの間に横たわる。
仲良くするな、距離を置け、お前のためを思って言ってるんだ。
分かったみたいな顔をして、知ったような口ぶりで、白々しく言い放たれた言葉の数々が、僕らに当たってそこら中に雑音として散らばっていく。
彼女のことが見えなくなる。
彼女の言葉が聞こえなくなる。
「ねぇ――――、て―――――の?」
じわじわと鳴く蝉の声が一層激しさを増した。
じゃらじゃらと川の流れに巻き上げられる小石が、こすれ合う音が耳に痛い。
うるさい、うるさい……うるさいんだ。
「美奈」
僕は立ち上がって、美奈の方へと歩み寄った。
水をたっぷり吸った服が少し重たい。
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