雑音

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「どうしたの?」  ふわりと、日焼け止めクリームのにおいがした。  白い肌を保つために、しっかりとケアをしてるんだろう。あぁ、違うなぁなんて思った。  違うのは嫌だなぁと、思った。 「好きだよ」 「……ん?」 「好き、だ……よ」 「……んん?」 「……」 「……」 「……って言ったら、どう……する……?」  うわぁぁああああああああああ!  かっこ悪いかっこ悪いかっこ悪い!  どうする? じゃないだろ! なんで判断を向こうに丸投げしてるんだよ! 言えよ! 言い切れよ! 僕のチキン野郎!  いたたまれなくなった僕は、きょとんとした顔の美奈の近くにこれ以上とどまっていることができなくて、バシャバシャと水を蹴って歩き出した。 「ちょ、ちょっと! どこ行くの!」 「も、潜ってくる!」  恥ずかしい、恥ずかしすぎる。  僕はどうかしてたんだ。じゃないとあんなこと、何の脈絡もなく言えたりするもんか。  今更になって早くなりだした鼓動がうるさくて、火照り出した体が鬱陶しくて、僕は水深が深くなっている下流の方へ飛び込んだ。  水の中は、静かだった。  ぽこぽこと立ち上る気泡の音。川が流れ込んでくる音。小石がからりと転がる音。  ささやかな音以外聞こえない、雑音のない静かな空間。とても心地よかった。  水の中にゆったりと沈みながら、僕は自分の中の雑念も消してしまおうと思った。明日からどうしようとか、返事はもらえるだろうかとか、なんで今言ったんだとか、そういう邪念を、今だけは。  
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