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どぼんと、何か大きなものが水の中に入った音がした。
薄目をあけると、沢山の花が揺蕩っていた。
これは……ひまわり? どうしてこんなところに……。
ひまわり……花……花柄。
花柄のワンピース。
そこまで考え付いた時、僕は地面を蹴って水中に顔を出した。
「美奈?」
「げほっ……げほっ……」
「お前、何して――」
「私も、言う!」
「は?」
服を着たまま水に入ることに慣れていないのか、すぐに沈みそうになる美奈の体を抱きとめる。
けほけほと水を吐き出しながら、美奈は言った。
「私も、言うよ!」
「だから、何を――」
「好きだよって! 私も好きだよって、言う!」
「……っ!」
それが僕の不細工な告白への応えだと気づくのに、少しだけ時間を要した。
どうする? と聞かれたから、私も好きって言う。なんて馬鹿正直で、ひねりのない……気持ちがいいくらい、素直な返答。
だけど僕は頭の整理がつかなくて、思ってもないことをぺらぺらと口にした。
「え、あ、は、はい? 何、言ってんだよ。僕のこと好きだなんて、そんなはず、ないだろ……勘違いだよ。いきなり僕が告白したから、びっくしりただけ、だろ? っていうか、そもそも僕たちが付き合ったら、周りにどんな目で見られるか――」
周りの目も、視線も、そんなのどうでもいい。関係ない。
そう思ってはいても、僕の口は無意味な雑音をぽんぽんと吐き出した。
あぁ、本当に僕ってかっこ悪――
「ごちゃごちゃ、うるさい!」
音が消えた。
夏の音も、僕の声も。
全てすべて、冷たい水に吸い取られた。
水中に押し込まれた僕の体は、すっかり冷え切ってしまっていて、夏だというのに温もりを求めていた。
密着した美奈の体の、ほんのりとしたぬくもりを。
背中に回されたほっそりとした腕。ワンピースからのぞく、白い太腿。柔らかい体。気泡が交わる唇。
その温もりだけを感じていた。
静かな静かな、水の中で。
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