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はーっと、白い息を吐いて、僕は手を温める。
手を擦り合わせると、微かに熱を帯びても冬の外気に触れて、すぐに冷たくなった。
繰り返し手を温めながら早朝の街を歩く内に、目の前に見知った後ろ姿を見つけた。車から降りたばかりのようで、走り去って行く車を見送っていた。
「おはようございます。お嬢様」
頭の上で結ばれたリボンを揺らしながら、振り返った。
「あら。おはよう。今朝、戻ってきたの?」
「はい。夜間の飛行訓練を終えて、今朝、戻ってきました。お嬢様は、どちらへ?」
「わたくしは、家出をしてきましたの」
「そうですか。家出を……えっ、家出ですか!?」
お嬢様は真っ赤になって?を膨らませた。
「そうよ。だって。パパも、ママも、家庭教師も、『もっと、淑女としての自覚を持って、自分を磨きなさい』の繰り返しで、イヤになっちゃうわ」
「はあ……」
「あなたはいいわよね。わたくしの使用人を辞めて、パイロットとしての道を歩めて……。わたくしもあなたの様に自由になりたいわ」
「お嬢様……」
僕は何か声をかけなければと口を開いたのとほぼ同時に、ぐぅっとお腹が鳴る音が聞こえた。
「ちょっと、わたくしが悲しんでいる時に、失礼ね」
「僕は朝食を食べてから、街に戻ってきましたよ。お嬢様の方では……」
僕が言っている側から、お嬢様の顔はますます赤くなり、瞳は潤んできた。
「ああ! じゃあ……ちょっと、待ってて下さいね!!」
僕は開店準備をしている近くの屋台に駆け込むと、何でもいいからとサンドイッチを一人分購入した。屋台のおじさんは迷惑そうな顔をしたけど、僕は代金を支払うと、サンドイッチをひったくる様に受け取り、お嬢様に突き出した。
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