第1章

2/11

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 私だって誰かに見られているし、勝手な期待をされているし、こうあってくれと願われているし、まあ人が人間として生きていくにはそれは仕方ないことなので、諦めてくれ。  とにかく、私は生田さんに不幸せに、才能を開花させることもなく、ただのインターネットお絵かきマンとして隅っこの方で才能を腐らせてほしかった。なんとならうつ病で苦しんでブラック企業に押しつぶされて、退職したものの職が得られず地方のスーパーの店員としてパートのおばちゃんにいじめられて、帰りにヤンキーに絡まれておやじ狩りにあった上に財布をとられて、警察に申し出たら若い警官に「今時おやじ狩りっスか」と笑われて欲しかった。生田さんに何の恨みがあるのか。何もない。なんとなら本物の生田さんにはきちんと幸せに生きてほしい。  ただ、インターネットの片隅に見える生田さんは鬱屈して、才能を持て余して、自らの才能に気づきもせず、もてはやされもせず、卑屈で、こてんぱんでどうしようもなくあってほしかった。  生田さんが悪いのだ。生田さんがそう思わせてくるのだ。  生田さんはそういう人だったのだ。なのに、なぜか、生田さんが目に見えて才能が評価され、埋もれず、大衆に向けて漫画を描き始めた。裏切りだ。  喜ばしい。拍手したい。もっと売れてくれ。もちろんそうだ。一人の人間の門出に拍手しよう。しかし生田さんはだめだ。     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加