第1章

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 一般人が作曲した音楽を次々に投稿し、ランキングで構築された「シーン」が日に日に変わる様はしびれた。真夏の木漏れ日差し込む角部屋で、ノートパソコンから流れる、聞き取りづらい合成音声が女子高生の心を揺さぶった。ランキングの曲は残らず聞いたし、学校では好きな曲をおすすめしあったし、友人の誕生日にボーカロイド曲をセレクトしたCDをあげたこともある。あのCDはまだ友人の家にあると聞く。もう我々は27歳なのに。  そう、あの、真夏の木漏れ日に照らされた思い出の時代。眩しさに目が白むそんな時代。  次第に、元来凝り性でオタク気質であるがゆえに、私は「掘る」行為をしたくなる。ランキングに乗らないような再生数の少ない動画、誰も知らない名曲をdigる自己満足をしていくうちに、2008年頃、「ボーカロイドアンダーグラウンド」なるタグ、およびそれをとりまく変人たちを知る。アンダーグラウンドたる名称に違わず、彼らは暗がりにいた。再生数千以下のインターネットの隅っこで、しかしとても楽しそうに活動していた。  女子高生の、承認欲求にまみれた私の脳を貫いたのは、彼らに承認欲求がてんで見られなかったからだ。  彼らは、自分がたのしければそれでよかった。自分の趣味を理解できるひとが寄ってきたら、「おっ良い趣味してんね、これも好きでしょ? そうそうそれとそれをサンプリングして作ったわけ、えっあの曲も入ってるって? よく分かんね……ひみつだけどあの曲もおすすめだよ」なんて知識をてらいなく発揮して、けろっとしている。  かっこよかった。     
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