第1章

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 私は当然に、生田さんもそういう、漫画に出てくるようなコミュニケーション不全で、日雇いで生計を立て、人外の女の子を夢想してよりどころにするような、不幸な人だと思っていた。不幸であってほしいと思っていた。不幸を受け入れて、明るい幸せを夢見ず、アンダーグラウンドで満足している、田中ナウ氏や歪みPのように承認欲求がゼロの人間であってほしかった。幻想だ。勝手な妄想だ。生田さんは、私の心の中で、私のための犠牲者だった。承認欲求があってもとうに諦めて、欲を捨てて、どうせ自分なんて報われないと最初からさじを投げて人生を鬱々と過ごしていて、これまでもこれからもずっと変わらないのだと思っていた。  もう私だって27歳だ、あの真夏の木漏れ日から十年以上経っている冬、私は生田さんはいつまでも不幸でいてくれるのだと思っていた。当然に不幸で、情けなくて、日々を鬱々と過ごしていてくれると思っていた。  だのに、裏切りられた!  生田さんはデビューした。おめでとう。おめでとう生田さん。  実は昔から好きでした。古参ファンぶるのも、なんともすわりが悪いものだ。だって嘘なので。歪みPのサムネイルを描かれた頃から、田中ナウ氏がおすすめしていたころから、ピクシブで漫画を乗せている頃から、独特で退廃的なスタイルが好きだった、なんて、言うのもおこがましい。  ああ、生田さんが、八頭身の女の子を描いて、漫画を連載して、社会的な営みの中で生きていけるなんて、思っていなかった。生田さんはくすぶって、くすぶって、どうしようもなくて、なにか劇的ではない平凡な死に方をして、死後マイナーな人間にのみ悼まれて短編集が出るような、そういう鬱屈した人生を送ってほしかった。     
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