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7月5日その2
ラミに星座盤の使い方を聞いたのは、良くない判断だったと思う。
結果的にそうは思っても、実際あのタイミングで他の話題なんて考えつかなかったはずだ。だから、流されるよりはましだったのかもしれない…けど…
「ああ、違うよ。自分の体を中心として、正面に向けて…」
耳元で聞こえる優しげな声。背中に触れるラミの温もり。後から抱きかかえられるようにして、両手を握られ…どこにも逃げ場など無い。
なんだこれ…どうしてこうなった…?私はただ、星座盤の使い方を教えてもらいたかっただけなのに…
気付けば、座っているラミの足の間に体を滑り込ませ、彼を背もたれにしているような状態に陥っていた。
決して私からラミの元に寄ったわけではない。初めのうちは真面目に説明を聞いていたんだけど…私の理解が追いつけなかったせいか、ああもでないこうでもないとしている間に、ラミが立ちあがって足の間に私を挟むようにして座り直した。
確かに、同じ位置取りで説明する方がやりやすいし、私も理解しやすい。最初は何も感じなかったんだけど…ふと、私の耳元を、ラミの息が掠ったわけだ。
そこで、異様な距離感になっていることを認識して、一気に意識をしだしてしまう。
あからさまに動きも返事も鈍くなった私に、ラミは気付いているだろう。恥ずかしくて死にそうだってのも分かってるはず。それなのに、彼は全く気にすることなく説明を続けている。最早、テンパっている私の方がおかしいような状況だ。
「ほら、魔力を込めるよ」
私の耳元で、囁きながら言わないで下さい…!同じ星座盤を覗き込むんだから、顔が近くに寄ってしまうのも理解できるんだけど…私には刺激が強すぎます…!
涙目になりながら、頷きだけの返事を返す。言われた通り、手元へ意識を集中させ魔力を流し込んで…淡く光りを放つ星座盤を眺めていると、ゆらゆらと描かれている星が揺れている。それが、術者の集中不足を物語っているのは、言うまでも無い。
「…ユノ、どうしたの?」
星座盤から私の顔の方へと、首の角度を変えてくる。更に接近してきた顔に、必死に息を止めた。
もう許して下さい、本当に。攻略対象キャラの破壊力が高すぎます…好きでもないのにこんなドキドキするなんて、寿命が縮みそうだ…
現実逃避をするように、ぎゅっと目を瞑る。それを見越してなのか、耳元へ触れるか触れないかのギリギリまで唇を寄せたラミが、再び甘い声で名前を呼んできた。息が耳元へとかかり、くすぐったさに体が震える。
「ひ…っ」
突然のことで、ガードの緩かった口から声が漏れた。それが、いけなかった。
ふっと息を吐く音が聞こえたと思ったら、手の甲を優しく撫でられる。それからもう一度呼ばれる名前。明らかにさっきよりも色の含んだ声…ラミのいけないスイッチを押してしまったみたいだ。
「前も思ったけど…やっぱり感度が良いよね」
「ラ、ラミ…!」
「この辺とか、ダメなんじゃない?」
耳たぶの端に軽くキスをされる。唇を噛み漏れそうになる声を必死に堪えていると、ラミの行為は更にエスカレートしていく。
ちゅ、ちゅっと音をたて、耳から首元へと唇が移動していき…首の真ん中辺りへ到達した時、突然電流のようなものが走った。
「ぁ…っ!」
「…ここ?」
軽くキスするだけだったはずなのに…今度は唇でなぞられ、くすぐったさに体が震える。食むように何度も弱いところを刺激されゾクゾクが止まらない。少しだけ強めに吸われ、自分のスカートを掴んで必死に耐える。
な、なんで…?これだけでこんな感じるとか…本当に、私の体おかしいってば…!
「ん、ふ…」
「我慢はよく無いよ?」
「ラミ…!」
「他はどうだろう…?」
今まで手を撫でるだけだったラミの腕が、動き出す。腹の辺りを撫でられ、そのまま上へと上がってきて…いや、本当、これ以上はマジでまずい…!
無駄に大きな下乳へと到達すると、人差し指だけ動き先端を掠められて口から吐息が漏れる。
「ひゃ、」
「―――ぁ、激しいのぉお…!!」
私が出した声をかき消すような声が、突然聞こえた。
え?!な、何?!何の声…?!一気に我に返った私は、ラミの手をはじき飛ばして自分の胸を両手で押さえ、勢いよく立ちあがる。数歩距離を取るように離れ辺りを見回してみるけど…さっきと変わった様子はない、ように見える…
「あっ、だめ、あん!あぁッ」
「え…、え…?」
「残念、良いところだったのに」
絶えず聞こえてくる声…明らかな喘ぎ声にテンパる私は、今さっきまで襲われていたラミへ助けを求めるように視線を送った。彼はさして残念そうな顔もせず、そう言いながら立ちあがると、こっちかな?と歩き出す。
え?ちょっと、まさか真っ最中の所へ向かうつもりですか…?不安げに見つめてみても、彼は爽やかな笑顔のまま手招きをしてくる。いや、でも、そんな…え、大丈夫…?
「大丈夫だから」
「ほ、本当に…?」
「こっち」
ラミの後を追って、茂みの中へと入っていく。なるべく物音を立てないように…なぜだか青姦してる相手に気を遣いながら進む。
さっき私たちがいた所の裏手側へ周り、少し歩いた所までくると、なんだか花の香りが漂ってくる。何だろう…?特に花は咲いているように見えないけど…辺りを見回していたら、突然ラミが木の陰へ隠れた。
え?!ちょっと待って、わ、私はどこに隠れよう…!慌てる私の腕を、ラミが掴むと再び彼の胸元へと納まる。う…っ、またこの位置デスカ…
「ほら、あそこ」
「え…」
視線の先には、制服を脱ぎ散らかし、引っかかる程度に身についてる下着姿のローズが、木に手をついて腰を突き出していた。細いその腰を、しっかりと掴まえ突き上げているのは、相方であるイヴァン…7月のイベントスチルが目の前で広がっている。
激しく突き上げ、ローズの細い体がガクガク揺れる。その度に甲高い声をあげてるけど…外なのに、あんな大声で大丈夫なんだろうか…
「僕たちがいた所が風下だったから、風に乗って聞こえたんだろうね」
「そ、そうですね…」
そんな冷静な分析をしている場合なのか…一刻も早く離れてあげた方が良いのでは…と言うか、他人の情事を見ても何も感じないラミって凄い。しかも、体の関係のある女と自分の部下のだよ…知らない人じゃないんだよ…王子ってこんなものなの…?
なんと言っていいのか分からず、同意の言葉を返していると、ラミはくすりと笑った。
「ユノには刺激強すぎたかな?」
「な゛…!?」
そんなうら若き乙女でもないですけど?!まあユノとしては経験もないし、付き合ったことも無いんですけどね…!
だからと言って何も知らないふりをするには心苦しいと言いますか…
「そ、そんなこと無いです…!」
反射的にラミの胸元から飛び出して、小声で叫んでいた。恥ずかしさと居たたまれなさが入り交じったせいで、興奮した私を見て、ラミはニヤっと笑う。
「そうか…じゃあ、僕らも楽しむ?」
「へ…?」
「大丈夫なんでしょ?」
「え、いや、それとこれとは、話しが別と言いますか…」
「ローズ、気持ちよさそうだよね」
「え…」
誘導されるように、視線はローズの方へと向いてしまう。こうやって話してる間にも、二人の行為はエスカレートして行っていて、ローズは髪を振り乱しながら喘いでいる。
「あんな風に中を突かれたらどんな感じになるのか…気にならない?」
「いや…えっと…」
そんな思春期全開みたいな発言を、ラミから聞けるとは思わなかったです…そうは思っても、想像しただけで下半身がじわっと熱くなってしまう。く…ッ、性欲に素直すぎるこの体が恨めしい…!
「さっきよりも、もっと気持ちいいんじゃないかな」
一瞬だけ胸を掠められた刺激が、フラッシュバックする。ほんの少しだったのに、抗えない感覚だった。もっと触ってもらえたら…?まして、直接だったら…どんな風になるのか…
白く細長い指が自分の胸を這って、飛び出ている中心を捏ねられる。思わず漏れた声に、欲で濡れた深い緑の目が細められて…「固くなってきてますよ、ユノさん…」なんて…!!
「ななななに、かんがえて…!!!」
勝手に想像したリアムのえっちな姿に自分で興奮してしまって、勢いよく両手で自分の頬を挟む。バチンって大きな音が出たけど、もう周りを気にしている余裕なんてない…!
「わ、わたし!帰ります…!」
荷物を引っ掴むと、逃げるようにして走り出す。後からラミの声が聞こえたけど、振り返ることなんて出来ない。
ひたすらに学園目指して突き進めば、時たま周りから聞こえる喘ぎ声に驚いた。真面目に観測をしたら、とっくに終わってる時間だし…残ってる男女の目的と言えば、確かにワンチャン狙ってるのかもしれない。
そう考えればラミが案内してくれた所は、ほどよく皆から離れていて、開けているために性的な行為へと持ち込みにくい、きちんと配慮された場所だったんだろう。
気を紛らわすために、そんなことを悶々と考えながら歩いてはいたんだけど…ああ、もう、どうしよう…!体が疼いて仕方ない…!
今寮に戻れば、ロビーには通ってきているクラスメイトが待機しているはずだ。こんな状態で、クラスメイトの前に出るのはさすがに抵抗がある…
「少しだけ、頭冷やして帰ろう…」
無事に辿り着いた学園の裏門をくぐった。今の時間に校舎に入る気分にもなれず、校舎と寮の間にある庭へと足を向けた。
庭では、夜で誰もいないっていうのに、噴水の水はいつも通り吹き出し、月明かりの下で花が咲き乱れていて…とても幻想的な雰囲気に包まれていた。
噴水の淵へと腰かけ、むせ返る花の香りを肺いっぱいに吸い込み深呼吸をする。
ここで時間を潰そう…自分なりに張り詰めていた気を緩めるように大きく息を吐き出した。
そうすれば、一気に押し寄せてくる罪悪感。自慰行為のために想像したわけじゃないけど…なんだか、リアムを汚してしまった気がして…でもあのリアム、すごくエロかった…ゲームでもあんなスチル、待ってたんだけどなぁ…って違う!
「はぁ……ごめんなさい、リアムさん…」
「何がですか?」
「何がって…あんな、えっちな…?」
口走りそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。声がした方を振り返り、固まる。
そこには、月明かりの下、微笑む推しが立っていた。
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