699人が本棚に入れています
本棚に追加
8月3日
「新制度の魔法使用条例を制定した年月は?」
「陰の歴145年、3月」
「正解です」
紙から視線を上げたリアムは、私の方を見るとにこりと微笑んでくれた。
リーンハルトと一緒に勉強した夜、リアムを初めて部屋に招き入れた日。
宣言通り本当に少ししか触ってくれなかった彼は、ぼんやりしている私へバックヤードで勉強しないかと誘ってくれ、本能的に二つ返事を返していた。
そして、次の日から、行き詰まると休み時間にリーンハルトに声を掛けて教えて貰い、放課後からはリアムの所へ通う日々が始まった。まあ、予想通り勉強が捗る日とイチャイチャしちゃって捗らない日とはあったけど…テストが始まってしまえば、しっかりと勉強へと時間を費やすようになった。
「凄いですね。ユノさん、暗記得意ですか?」
「そうなんです!計算よりも断然…」
「確かに…昨日はほとんど一夜漬けでしたもんね…」
昨日のテストは私の苦手科目である術式学。計算が本当に苦手で、苦戦していた私に、リアムは根気よく付き合ってくれて…前日の追い込みは本当に朝までだった。
寮に戻ってシャワーを浴び身支度を整え直せば、すぐにテスト。それが終わってから明日に向けての勉強をまたリアムの所でやっている今は、ほとんど眠っていない状況だ。それなのに、そこまで眠くも無く勉強できてるのは、追い込まれてるせいで興奮してるのかな…
「これなら大丈夫でしょう」
「だと良いんですけど…」
「今日はこの辺にしましょうか」
「明日が本番なのに…?」
「今のユノさんの実力なら大丈夫ですよ。それよりも、今日は少しでも休んで下さい」
伸びてきた手は、優しく目の下を撫でてくれた。クマができてるであろうそこに、思わず苦笑してしまう。私と同じ完徹状態なはずが、リアムの顔色は特に変わらず、クマだって薄いって言うのに…
「すみません、私、酷い顔してますよね」
「…頑張るユノさんも応援したいですけど、こんな無理は今回限りですからね?」
あえて返答はせずに、そう答えたリアムは数回頭を撫でたら立ちあがる。
どこに行くんだろう…じっと見つめていたら、彼は部屋の入り口で振り返り、お茶をいれてきますから休んでいて下さいとウインクを返してきた。なんであんなイケメンなんだろうなぁ…頷く私を見て、にこっと微笑み消えていくリアムの背中を見つめながら幸せのため息が漏れた。
◆
今日この辺でお開きだろう。テーブルの上へと広げた勉強道具へ手を伸ばす。鞄の中へと詰め込んでいると、良い香りが漂ってきた。顔を上げれば、すでにリアムがお茶のセットを持って部屋の中ほどまで戻ってきている。
「あ、お帰りなさい」
「戻りました」
綺麗にしたテーブルの上には、今度はお茶のセットが広がった。いつも使っているポットやカップの他に、見覚えのある装飾が綺麗な小箱が乗っているを見つけて…自然とそれを手に取っていた。
「これって…」
「おや、覚えてますか?」
この前と同じように、リアムは小箱の蓋を持ち上げてくれる。そして広がっているパステルカラーの砂糖菓子に、わぁ~なんて間抜けな声を漏らしてしまった。
「頑張っているユノさんへ、ご褒美です」
小箱に入っている花弁を一つ摘まむと、私の口元まで持ってきてくれる。大人しく口を開ければ、砂糖菓子の甘さが広がる。
「ん~~~~、美味しいです…!」
じゅわっと口内の温度だけで溶けるそれは、歯を立てる前に小さくなっていく。
本当にこのお菓子美味しい…おまけに、リアムから食べさせてもらえてるなんて…甘さが倍増しているような気がする。
「好きなだけ食べて良いですよ?」
「え…?!い、いいんですか…!」
「ええ、ご褒美ですから」
ごくっと唾を飲み込んでから、小箱の中を覗き込む。箱の中にはまだまだたくさんの花弁が入っていて、凄く綺麗で見てるだけでも楽しい。どんな種類があるのか一通り確認してから、チラっと見えていた薄い緑色のを指で摘まみ上げた。
それをリアムの顔と同じ位置まで持っていき並べるようにしてみたら、不思議そうにこちらを見ている深い緑の瞳と目が合った。
「へへ…リアムさんと同じ色です」
リアムのイメージカラーと言えば、緑!並べてみれば、やっぱり彼には緑が似合う。イメージカラーを意識して、緑色をした砂糖菓子を食すとは…少しだけえっちな気分になったのは内緒にしておこう。
勿体ないから、一口だけ囓って口の中へといれる。さっきよりも簡単に溶けてしまうけど…少しずつ食べた方がありがたみは増すんだよねぇ。
「…美味しいですか?」
「おいしいです…!」
推し色をした砂糖菓子を無心で囓っている私へ、隣から声を掛けられ…我に返って慌ててリアムの方へ視線を戻した。す、すいません、推し色の砂糖菓子美味しいし、リアム甘い堪らないとか思ってました…!
「ご、ごめんなさい、私ばっかり!食べますか…?」
「それじゃあ…」
テーブルの上へ戻してしまった小箱を取ろうとしたけど、それよりも前に食べかけの砂糖菓子を掴んでいる方の手首を掴まれた。
なんでそっちを掴むんだろう…?どうしたのかリアムを見上げたら、掴んだ手首を私の顔の方へと近づけてくる。
さっきと同じように口元へ砂糖菓子を近づけられ…無意識に口を開いてしまう。口内へ広がる甘い味…あれ、貴方が食べるんじゃありませんでしたっけ…?
意味が分からなくって見上げていたら、甘い笑顔を浮かべているリアムの顔が近づいてくる。こ、この笑顔は知ってる!エロいことしてる時の顔だ…!そう思った時には遅すぎて、すでに唇を塞がれていた。
半開きになっている唇の間から、するりと温かいものが入り込んでくる。これをされると弱い…リアムとのキスは気持ちが良すぎて、何も考えられなくなってくる…入ってきた舌は、私の舌と一緒に口内に入っていた砂糖菓子も一緒に転がしていく。
「ん、ぁ…」
しつこいぐらいに絡みつく舌に、吐息が漏れる。苦しくて、でも口の中いっぱいに広がる甘い味も零れそうで…必死になって飲み込むのに、それすら許さないといったようにリアムの舌が舐めあげてきた。
「ふ…ッ、は…!」
縋るようにリアムにしがみつけば、応えるように彼の腕も私の体を抱きしめてくれる。固定するみたいに後頭部へ腕が回ってきて、髪の毛を掻き上げるように撫でられた。
普段撫でられるだけなら全く感じないのに…キスしてる時の少しだけ乱暴な撫で方をされてしまうとそれだけでも快感を拾ってしまう。
いつの間にか、砂糖菓子は二人の熱によって溶けてしまっていた。飲み込みきれない唾液が口の端から零れているのも忘れて、リアムから与えてもらえる感覚に溺れていく。
強めに舌を吸い上げられると、甘い痺れが腰に向かって走っていった。それを我慢することなんか出来ずに、軽く体が震える。
蕩けきった体は思うように力も入らない。口内を犯されながら、ゆっくり体に体重を掛けられれば、素直に倒れていき…背中に柔らかい感触がした。頭も柔らかい何かの上へ落ち着いたら、首の下から腕を抜かれる。それでもしっかりと頭が固定されていて…いつの間にか、クッションを頭の下へ敷いてくれたみたいだ。
手慣れていて悔しい…掠めたそんな思いも、私を見下ろしているリアムの顔を見れば吹っ飛んでいく。少しだけ息を乱しながらペロっと口の端を舐めあげて笑う姿は、とんでもない色気だ…
「ああ…勿体ないですね…」
色気をまき散らしているリアムは、再び顔をこちらへと寄せてくる。肩を上下させて呼吸をしている私の首元まで近寄ると、ぺろりと首筋から舌を這わせ、口の端まで舐めあげられた。
「甘くて、美味しいですね…ユノさん」
いつもと同じように指の腹で頬を撫でてくれるけど…この状況でされると、それすらもいやらしく感じてしまう。何も言えなくて、ただ荒い呼吸を繰り返しながらリアムを見つめ返していたら、撫でていた指が下の方へと移動してきた。
頬、耳、顎、喉と辿ってきた指は、更に下へときて…服の上から鎖骨を撫で上げられる。シャツ越しのわずかな刺激だと言うのに、途端に鳥肌が立った。
「他の部分も甘いんでしょうか…?」
鎖骨を撫で回していた手が、ゆっくりした動きで更に下へと移動していく。
無駄に大きいだけだと思っていた胸に手が這って、軽く揉まれる。初めは優しく、次第に強くなって、ぐにゅっと形が崩れるぐらいに揉まれると、自然と口から声が漏れてしまう。
「あ…」
服の上から揉まれてるってだけなのに、下半身が熱い…きゅんとするのが堪らなくて、膝をすり合わせて耐える。
ジーっと鈍い音が耳を掠め、腕を持ち上げられた。ぼうっとした意識の中視線を向けると、私の腕がジャンパースカートから引き抜かれている所で…スカートの上半身の部分が、お腹辺りまで捲れていた。阻む物は、シャツと下着に減ったところで、再び揉み上げられ、今度は先端にも指が伸びる。
「ひゃ…!」
人差し指の爪が引っ掻くように先端を何度も行き来して、じんとした感覚が走る。
やだ、どうしよう、揉まれてただけなのに…シャツと下着越しでも分かるぐらいに固くなってるよ…!
恥ずかしくって、隠そうとしたけれど…カリカリと何度も爪で引っ掻かれ体が震える。隠したいはずなのに、もっと触ってもらいたい気持ちの方が強くて…胸を弄っているリアムの手へ添えるような状態になってしまった。
「リアム、さん…」
甘ったるい声で名前を呼ぶと、何を思ったのか…彼は、片方だけ手を退け代わりに顔を近づけてきた。見て分かるぐらいに膨れている先端部分を、迷わず口に含み食まれる。
「んぁ…?!」
思ったよりも強く何度も食まれ、舌先で押された。みるみるうちにシャツは彼の唾液で染みていき、下着が透けてくる…
指と口によるもどかしい愛撫をされているだけでも堪らないのに、自分の最推しの人がシャツの上から胸を食んでいるって言う光景もやばい…彼のこんな姿を見て、下半身へ更に熱が集まっていくなんて、私…変態かもしれない…
ぷちっと、三番目辺りのボタンが外された。熱くなっている肌を、冷たい空気が撫でる。
ああ…やっと、直接触ってもらえるんだ…嬉しくなって手を伸ばし、リアムの頬を包み込むように添えれば、緑がこちらを向いてくれた。
「好き…」
「ッ、ユノさん…!」
胸から顔を離したリアムは、体勢をおこすと再びキスをしようと顔を寄せてくれる。彼の柔らかな唇を待つように目を閉じたけど…それよりも先に、リンと甲高い音が部屋に響いた。
「チッ…!」
割と大きな舌打ちが聞こえ、ゆっくりと目を開くと、前髪を掻き上げたリアムが飛び込んでくる。
彼は緩慢な動作でソファーから立ちあがり、着ていた上着を脱ぎ始めた。
「すみません…頭、冷やしてきます…」
少しだけ目元を赤くした彼は、苦笑を浮かべながら私の体の上へと脱いだ上着を掛けてくれた。珍しく靴音をさせながら表へと出て行く彼の後ろ姿を見送りながら、ぎゅっと上着を抱きしめる。
この時間なら、ギリギリ生徒がいるだろうし、買い物に来てもおかしくはないんだろうけど…なんでこのタイミング…?!
おまけに、中途半端に煽られた体を、リアムの匂いに包まれるなんて…とんだ焦らしプレイだよ…!涙目になりながら、別の意味で悶えたのは言うまでも無い。
最初のコメントを投稿しよう!