8月31日その2

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8月31日その2

  「ユノ…さん…?」  推し色コーデで全身をまとめ、プロによるメイクとヘアセットまで至れり尽くせりされて、待っていたリアムの元へと向かえば、彼は突然口を抑え天を仰いでいた。 「え、リ、リアムさん?!だ、大丈夫ですか…?!」 「す、すみません…ユノさんが、あまりにも素敵で…」  再び私の方へと顔を戻してきたリアムは、珍しくうっとりとした表情を披露してくれる。その顔が恐ろしくエロくって…!その顔だけで腰が砕けるかと思った。持ちこたえたけど。  来た時とは違い、全てを新しい物へと着替えて外に出ると、景色が少しだけ違って見えた。未だにリアムの隣に立つのは不釣り合いかもしれないけど…少しだけ近づけたかな?なんて思ってしまう。向けられる視線だって、さっきとは少し変わったように思えるし…馬子にも衣装とはこの事。  ビクビクと怯えていた高級エリアだって、リアムに腰を抱かれながら歩くのも少しだけなら平気になったような気がする。  時刻はすでにお昼過ぎ。あのお店でそんなに時間が経っているとは思わなかった。私だけが楽しかったんじゃないかな…ショッピングって男の人はつまらないと聞くけれど、リアムはいろんな服を着た私を見れて楽しかったですよ、なんて、スパダリ回答を返してくれた。  さらには、私が準備をしている間に、試着した物全てと今朝まで着ていた服を後日学園へ届くように手配をしてくれたお陰で、手ぶらで歩けているのも有り難い。  しかもお金は全てリアム持ち…正直とても助かったけど、大変申し訳ない…深々頭を下げたのに、彼によってすぐに頭を上げさせられてしまった。気にしないで欲しいけど、それも気になるようなら今日は私に付き合って下さい、と微笑まれてしまった。  そんな会話をしながらリアムにエスコートされてついた所は、いかにも高級店そうなレストランだった。 「いつもとちょっと違った物が食べれますよ」 「で、でも、私なんかが入って良いんですか…?」 「もちろん、どなたでも入れますから」  さあ、と軽く押されて促される。明らかに一般人には敷居が高すぎて入るのを戸惑う店なんだけどなぁ…?!先に着替えさせてくれたのはこのためだったのかもしれない。  気にすることも無く入っていくリアムに連れられて、私も店内へと足を踏み入れた。  高級レストランなんて、前世でも今世でもお世話になる機会なんてなかったから、とても緊張する…画面越しでしか知らない世界が広がっていて、やっぱり本物もこんな感じなのかと変なところで感動してしまった。  すでに予約済みだったようで、名前を言えばすぐに席へと案内されてテーブルへ付いた。好きな物を食べて下さいと言われたって、文字だけのメニューで何を察しろと…ここで私が戸惑う所まで予想通りだったのか、好きそうな物を選んでおきましたと言う神対応。  おまけに彼の言う通り私が好きな味で美味しいと言う…高い料理は口に合わないと思っていたけど、庶民の私でも美味しいって感じれるのか…。  入ったことも無いお店で、味わったことも無い料理を頂く…緊張で何も感じられないと思っていたけど、普通に楽しくリラックスして過ごすことが出来た。それが出来たのも、リアムが気を回してくれたお陰だろう。  お手洗いに行っている間に会計まで済まされていて、スマートすぎるエスコートに惚れ直してしまったのは言うまでも無い。  店を出た後、どこか行きたい場所はあるかと問われて上手く答えられずに口ごもってしまった。  実を言うとこの街にそこまで詳しいわけでは無い…知っているのは、ゲーム内でも慣れ親しんだイベントが起こる場所やら、アイテムが購入できる場所やら…それ以外については何も知らないってレベルで分からない。田舎から出てきて、毎日学園内で過ごしていればこんな物なんだろう…詳しくないとぼかして答えると、リアムはご案内しますよと笑ってくれた。  高級街を抜け、向かったのは下町。一気に街の雰囲気は変わり活気づく。  数歩下がって後ろ向きでコインを投げ入れ、入れば願い事が叶う噴水とか、ステンドグラスが見事な教会で有名だけど、ここは国で経営している孤児院でもあるとか、あそこの屋台は美味しいとか…私の知らない場所を、次々に紹介して行ってくれた。  それなのに案内に夢中になることは無くって、離れないようにとさり気なく腰に手を回され抱き寄せられて歩き、耳元へと唇を寄せて話してくれる…甘さも気遣いも完璧だ。  売店や二人きり以外の場所では、基本的に生徒と学園関係者って言うスタンスを崩さなかっただけに、恋人扱いをされている感がすごくて…むず痒くも、やっぱり嬉しくなってしまう。  途中、旅芸人が集まる場所があると広場を通りかかると、言っていた通り楽器を演奏している人たちとも遭遇できた。  物珍しいけど、さすがにリアムと一緒の時に立ち止まって見るのも…と思って、横目で見ながら通り過ぎようとしたら、察した様に立ち止まり、見てみましょうか?と声を掛けてくれる。おまけに見やすいようにとギャラリーの前の方へと場所まで確保…至れり尽くせりで、罰が当たってしまいそうだと恐縮するんだけど、披露されている芸を見てすぐに夢中になってしまった。  音楽に合わせて年端もいかない少女が踊り、周りの人へと花を配る。その子は私の目の前までやってくると、ポーズを決めて、演奏が止まった。  周りの見物客から拍手が沸き起こる中、その子は腕に抱えていた籠から花を取り出すと、私に向かって差し出す。 「はい!お姉ちゃんにあげる!」 「え、いいの…?」 「うん!お姉ちゃん綺麗だから」  こ、子供って怖い…!打算無しの全力褒めを頂いてしまい、結構ガチめに照れながらも、膝をついて女の子と同じ所まで視線を落とすとその花を受け取った。  ニヤけないよう必死に取り繕いながらそれを耳へかけるようにして髪に差し込むと、女の子は嬉しそうに笑ってくれる。 「有り難う、貴女も素敵な踊りだったよ」 「ほんと?!」 「とても上手でしたよ」  同じように腰を屈めたリアムの声が降ってきたと思えば、そっと彼女の籠の中へと金貨を滑り込ませた。それに驚いたのは女の子で、そんなつもりじゃないからもらえないと首を振って返そうとしたけれど、リアムはおやと首を傾げた。 「私は、貴女の素晴らしい踊りに対して正当な評価をしただけですよ」 「ほんとにいいの…?」 「ええ。是非、また見せて下さいね」 「ありがとう…!お姉ちゃんの旦那さまはすごく良い人ね!」 「え…?!だ、だんな…ッ!?」  子供らしいニカっとした笑顔を浮かべた女の子は、丁寧にスカートの裾を持って腰を下げる仕草で礼をすると、演奏をしていた大人達の元へと戻っていった。きっと事情を説明しているんだろう、驚いている大人達を他所に、リアムは行きましょうとそそくさ立ち去ってしまう。  私はと言えば、そんなことよりもリアムのことを旦那と言われたことの衝撃が大きくて…何か気を回すことも出来ずに、彼の言う通りにしか出来なかった。  ◆  その後、疲れていないかと聞かれてケーキの美味しいお店へと入ってまったりと過ごし、日が暮れる頃には寮へと送り届けてくれる健全なデートを送った。  そのまま帰ろうとするのを引き留めると、良いんですか?と切なげな顔をされて問いかけられる。良いも何も!今日はお世話になりっぱなしでしたし!!力強く頷き返したんだけど、やっぱり切なそうに笑われてしまった。  部屋へ招き入れ、リアムには上着類を脱いでもらっている間にお茶をいれよう。テーブルに置いてあるポットを手に取ると、すかさずそれを奪い取られた。 「今日もてなすのは私の方ですよ?」 「でも…リアムさんにも一息ついて欲しいんです…!」 「では、これを淹れたら一息つきましょうか」  にこっと微笑んで躱すと、慣れた手つきで私の部屋のキッチンへと立つ。  私服のリアムが私の鍋を使って湯を沸かしてくれる姿は、なかなかに嬉しいシチュエーションで…申し訳ないと思いつつもニヤつくのをこらえられそうにない。  こっちに戻ってくるまでに顔をなんとかしないとな…とりあえず両手で頬を揉んでおこう。 「お待たせしました」 「あ、有り難うございます…!」 「いえ、ユノさんが淹れてくれるには劣りますが…」 「そんなこと…朝からずっと至れり尽くせりで…身に余る程のエスコートでした…」 「街中を歩いている時、視線を集めていたことに自覚はありましたか?」 「いやいや、それはリアムさんを見ているからで…」 「とんでもない。皆さん、君を見ていましたよ」  手に持っていたカップをテーブルへと戻し、頬杖をついた彼は、目を細めてこちらを見つめてくる。色気が混じったその動作に、私は反射的に頬を染めると同じようにカップを戻した。 「だから、ユノさんを離したくなかったんです。この人は私のですよ、って見せつけたかった」 「見せつけ…?」 「ずっと、腰を抱いていたのに気付きませんでした?」 「あ…!」  確かに、手から腰へと変わっていましたけど…しっかりしたエスコートだなぁとしか感じていなかった動作に、そんな意味があったとは…!思っていたよりも、彼から独占欲を向けられていたと知ってしまえば、ますます頬を赤くしてしまう…!  なんて答えれば良いのか困っていれば、リアムは静かに立ちあがり私の元へと近づいてくると、そのまま足下へと膝を付いた。 「え、リ、リアムさん…?!」 「慣れない靴で疲れたでしょう?」 「ひょお?!」  行儀悪く開き気味で床に付いていた足の片方へと手が伸びると、靴のままリアムの膝の上へと足先を上げられた。突然の出来事に吃驚したまま見つめてる間にも、労るようにふくらはぎを撫で上げられ、そのまま靴を脱がされる。 「あ、あの…!?」 「これ、気持ち良くないですか?」 「ぁ、きもちいです…」  絶妙な力で揉まれれば気持ち良くて…素直に頷いてしまった。良かったです、と眼鏡越しに上目で見上げられ…なんだかいやらしいことをされているような気持ちになってしまう。  気持ちいいマッサージの上に、怪しい雰囲気。気を抜けば声が漏れてしまいそうで、口を手の甲で抑え、椅子の背へ縋るような体勢を取って耐えれば…なんと、リアムの唇が指先へと触れた…!  ちゅ、とリップ音をたてながら足の甲、くるぶし、ふくらはぎへと唇は移動していく。優しくスカートを上げられると、太ももに食い込んでいる白いニーハイへと歯をたてて…そのままゆっくりと引き下ろして脱がされていった。  伏せがちの目で、口だけつかって靴下を脱がされるのがここまでえっちだとは思いませんでした…! 「ひぅ…!」  敏感になりすぎていて、たまに掠る素肌の感覚で変な声を上げてしまう。口からぽろっとニーハイを落とすと、今度は素足の指先へ顔を寄せられる。 「だ、ダメです…!」 「ダメですか…?」 「ダメ、です…あ、足だなんて…!」 「うーん…だけど、私もダメです」 「そん、な、ッぁ…!」  遠慮無く再び指先にキスを落とされ、おまけに足のマッサージまで始まってしまって…やっぱり私の体は椅子へと沈んでいってしまう。 「それに、良いですか?って確認したじゃありませんか」 「や、ぁッ、」 「こんな可愛らしく着飾った魅力的なユノさんを前に、ここまで我慢しているんですから…」 「舐めちゃ、やだぁ…」  太ももまで上がってきたリアムは、内側へとキスを落としそのまま舌を這わしてくる。ちゅっと吸い上げられて、ゾワっとした刺激が下半身に駆け巡った。息も絶え絶えになりながらも、リアムが与えてくれるそれに体を震わせる。  部屋に入る時に聞いてたのは、こっちのことだったなんて…考えもしなかったよぉ…!次々と襲ってくる快感のせいで、思考なんて蕩けてしまって…本能に従順な体は簡単に力を抜いてしまう。 「そうだ、ユノさん。今度の感謝祭の日も、贈った服を着てきてくれますか?」 「ふぁ…」 「ユーノさん?」 「は、はい…」 「次の服は、丈が長めのにしましょうか」 「わかり、ました…!」 「ふふ、楽しみですね」  だらしなく広げた足の付け根、下着ギリギリの際どい所を強く吸い上げられて、ビクっと腰が震える。リアムが何を言っているのか、半分も理解できてないけど…必死になって返事を返せば、彼は柔らかく微笑んでくれた。  とりあえず、自分は魅力の無い田舎娘であると言う言葉は地雷だっていうのだけはしっかり理解したデートだった。
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