9月21日

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9月21日

   健全なデートとは一体…一線は越えていないけど、なんだか変態プレイみたいな最後を迎えたデートを終え3週間。  とうとう、待ちに待った感謝祭の日がやってきた。  デート数日後に大量に届いた服の中から、とりあえずロングワンピースをチョイス。ふわふわした頭の中でも、ロング丈にしてくださいねっていうのだけは覚えていた私を褒めてあげたい。  茶色のギンガムチェックで、前回と比べればかなり大人しいデザインのワンピースだけど、やっぱり裾はフリルが付いていて可愛さは忘れていない。今回は自分で薄くメイクもして、同じ待ち合わせ場所へと向かう。  前は早く着きすぎてしまったので、今回は10分ほど前ぐらいに部屋を出た。それでもやっぱりリアムは既に立っていて、思わず駆け寄ってしまう。前回とは違って少しだけラフな格好をしている彼は、今日は黒縁の眼鏡をかけていた。では、行きましょうかとやっぱり優しく手を繋いでくれて…今日もそれだけで好き、と堕ちたチョロい女ですみません。  ◆ 「すごい賑わってますねー!」  学園、高級街を抜けて下町へ来れば、予想以上に人で溢れかえっていた。  店の外にまで出店して売っていたり、どこから来たのか屋台みたいなお店もたくさんでている。街中を魔石がはめ込まれたランプで飾られ、色とりどりの光が溢れていて…華やかな様子だけで楽しくなってくる。  きょろきょろと見回すのは田舎者っぽいだろうからあまりしないようにって思ってたんだけど、今日だけはそれを止めることは出来そうに無い。  そうやって見ている私はターゲットにされやすいんだろう、屋台のおじさんにそこのお姉さん!と声と共に手招きをされる。どうしようかと戸惑っていれば、後ろについていたリアムから行ってみましょうかと背中を押されてしまった。  近くまできてみて、その屋台はアクセサリーを扱っているものだと分かった。色とりどりの石がはめ込まれたアクセサリーが並んでいて、これは見るだけでも楽しい。 「わあ…可愛い…」 「安くするから見てってよ」  おじさんに言われて、愛想笑いを返してから視線を再びアクセサリーへと戻す。手持ちでも買える値段だけど…さすがにこんな贅沢は出来ないかなぁ…申し訳ないけど、せめて目だけでも楽しませてもらおう。私たちがいれば、他の人も覗きに来やすいだろうしね…!  指輪、ネックレス、ブレスレット…ゴテゴテとした装飾の物からシンプルな物まで並ぶ。学生だからアクセサリー類を普段身につけられないし、自然と視線は実用的な髪飾りへと移っていく。  その中で、銀のバレッタに緑の石がはめ込まれた物に釘付けになった…推し色の可愛い物を見つけると、それが欲しくなるのはオタク女の性だよね…昔も今もやめられないヤツだよねぇ…じっと見つめていたら、横から手が伸びてきて、バレッタが持ち上げられる。 「すみません、これを一つ」 「お、ありがとう」 「え?!リ、リアムさん…?!」  慌てて止めようとしたけれど、既にお金をおじさんへと渡しているリアムの行動は止まらず、買い物が終わってしまう。金額的には、この前のデートの時に買って貰った物たちと比べ物にならない安物だけど…そう簡単に買って貰うには抵抗がある。 「お金…!払います!」 「良いんです」  手に持っているバレッタを、私のサイドの髪へ差し込み留める。姿勢を正して私を見下ろせば、うんと頷きながら微笑みを返された。 「私が贈りたいと思っただけですから。可愛いですよ、ユノさん」  バレッタが留められた側の頬を撫でながら満足そうに笑う姿に、私の言葉は詰まる。ン゛ン゛ン゛なんて尊すぎて辛い時の悶えた声が漏れそうで、きゅっと唇を噛みしめた。年上彼氏、素敵すぎか…!  それが照れてるように見えたのか、おじさんが盛大に笑い声を上げた。 「初心な彼女だなぁ!お幸せにな、お兄さんたち」 「有り難うございます」  笑顔でさらっと答えたリアムは、私の手を引きお祭りへと戻って行く。何事も無かったかのように、やっぱり混んでますねぇなんて言って、握っていた手に指を絡ませて…所謂恋人つなぎへと絡み度を上げてきた。 「はぐれないように…なんて、よくある言い訳ですかね」  ちょっとだけ照れて笑う顔の破壊力たるや…上手いことなんて返せる訳も無く、握られた手を握り返して、好きって言うことしかできなかった。  語彙力皆無な私の返しでも、リアムは私もですと引かずに居てくれて…100点すぎる推しは120点の彼氏すぎて、私はいつか萌え死んでしまうかもしれない。  前回と違って、屋台で食べ物を買い食べ歩くデートはすごく楽しい。やっぱりこう言った庶民的な過ごし方のほうが合ってる。  串に刺さったお肉を頬張りながらしみじみと思う。私が食べやすいようにと歩くのを一度止め、通りを見渡せる端へと寄ってくれる気遣いも有り難い。セレブも庶民も心得のある一面を知って、振り切れている好感度は更に上昇中だ。 「ユノさんは幸せそうに食べますねぇ…」 「幸せですもん…!」  美味しい物を食べるのも幸せだけど、それ以上にリアムと一緒に居るからそうなってるんだけどね。訂正はせずに頷く。 「それは良かったです。美味しいですか?」 「はい!あ、リアムさんも食べますか?」 「おや、良いんですか?」 「食べかけですけど…」  串を差し出せば、受け取ることはせずにリアムは腰を屈めてきた。髪の毛を耳に掛けながら、差し出している肉へと齧りつきそのまま一つを引き抜いて口の中へと収める…一連の動作がこれまたえっちで、食い入るようにして見つめてしまう。  もごもごしながら美味しいですね、と微笑む姿は可愛いなんてずるいでしょう…!ですよね、って同意をした私の顔がニヤけてないか心配…さり気なく話題を逸らしておこう。 「そういえば、リアムさんって目が悪いんですか?」 「え?」  まだ口を動かしているリアムは、ずり落ちてきた眼鏡を押し上げながら不思議そうな顔をして、すぐに察したように頷いた。飲み込んでから、こいつのことですね、と眼鏡を持ち上げる。 「前も掛けてたし、目悪いのかなって」 「これは顔を隠す用ですね」 「顔を隠す…?」  なんで変装が必要なんだろう…理解できず首を傾げる。 「外とは言え、学園は近いですから。私服だから気付かれにくいと思うんですが、ユノさんが売店の男と一緒に歩いている、なんて…少しでも特定されにくいように掛けてるんです」 「え、そんな、私気にしないです…!」 「あれ、そうなんですか…?」 「そうですよ!こんな素敵な人とお付き合い出来てるなんて、自慢したいぐらいなんですから!あ…!でも、リアムさんにも事情が…」  表では売店のお兄さんだけど、本当は諜報的な仕事をメインとしてそうだし…そのための眼鏡…?と言うか、私も何か変装した方が良い…?私なんかが一緒に歩いてて大丈夫なのかな…考えれば考えるほど不安になっていく。  それはしっかり伝わっていたようで、深みにはまる前に名前を呼ばれ意識が浮上する。 「私は特に何も無いですよ。それよりも、予想以上に愛されてることを知れて嬉しいです」  最推しですもの、この世界の誰よりも貴方のことを好きな自信はすごくあります。  さすがに面と向かって告白することは出来なかったけど、重すぎるぐらいの私の愛に引かれなかったのはとても嬉しい。  それに、リアムも私のことを考えてくれてるんだって知れて…学園の外に出るって、意外と大切なことだったのかもしれない。  食べ終わり再び祭りを回っていると、強烈な赤が目の端へと飛び込んできた。  自然と視線はそちらへ向き、見慣れた横顔に思わず声が漏れる。そうすれば、私の視線を追うようにリアムもそちららへと顔を向ける。 「あれ、ローズさんですよね…」  ヒロインオーラ全開のせいか、周りの人間より眩しく見える彼女の隣には、見たことも無い黒い男の人が立っていた。  全身黒い服を身に纏い、腰まで伸びている黒い髪を一纏めにしている痩せ形長身の男。恐ろしいぐらい無表情で冷たい雰囲気の男と、その男の腕へ蕩けた顔をして抱きついているローズの姿は、溢れかえる人混みの中でも異様な雰囲気を醸し出していた。 「一緒に居るの誰だろう…リアムさんは知ってます?」 「嘘だろ、あの男…」 「リアムさん…?」 「…離れましょう、ユノさん」  優しい空気が消え去り、何度か見たことのある鋭い視線で男を見据えたリアムは、低い声でそれだけを言うと私の手を引き二人へ背を向け歩き出す。  どうしただとか、あの男は何者なのかとか、聞きたいことはたくさんあったけど…今はただ、リアムの言うことに従った方が良いだろう。  人の間を縫うようにしてしばらく歩き、比較的静かな路地裏へと入ってくるとやっとリアムは引いていた手を離してくれた。  振り返った彼は、すみませんと苦笑を浮かべつつ頭を下げてくる。いつも通りに戻ったのに内心ほっとした。諜報員のリアムが嫌いなわけではなくって、彼が表の顔へと戻った時は安全になったんだと認識をしているから。  大丈夫ですと首を振って笑顔を返せば、更にすみませんと頭を下げられてしまった。 「せっかく楽しんでいたのに、引き離すような事をしてしまいましたね…」 「え?!そんな、気にしてないですし…!事情があるんだって、分かってますから」 「ユノさん…ありがとうございます」 「いえいえ…えっと…あの人の事、聞いても大丈夫ですか…?」 「…あの男は、あまり良い噂が無いんですよ」 「良い噂…有名な人なんですか?」  顔だけはものすごいイケメンだった…メインの攻略キャラと並んでも負けないレベルだったけど、全く見覚えは無い。ローズと一緒に居るってだけで、ゲームの主要キャラなんじゃないかって身構えちゃうんだけど、そう言うわけでも無いのかな…? 「ジズと言う、宮廷に仕える魔法研究者です。仕事に対して真面目で、優秀なんですが…我が強く融通も利かない。おまけに、探究心が強すぎて倫理性が…」 「あー…なるほど…」  居ますよね、そんなタイプの人って一人は…黒ずくめで冷徹、無表情、それでもってイケメン…しっかりテンプレ通りの男に思わず納得する。  でも、なんでそんな人間がローズと一緒に居るんだろう…宮廷の人なんて、学生にとっては縁遠いはずなんだけど…そこはヒロインの力でなんとか出来るものなんだろうか。 「関わるだけ面倒な相手ですから、ユノさんも気をつけて下さいね」 「はい…と言っても、私とは住む世界が違いそうです」 「魔法を扱えるだけでも十分接点に成り得ますよ」 「あ、そっか…わかりました」 「さて、まだ時間はありますし、もう少し見て回りましょうか」  話題を変えるように、明るい声で提案をしてきたリアムに、秒で頷きを返す。  感謝祭は夜まで続く長いお祭りで、クライマックスには夜空に光の花が打ち上げられる。前世で言う花火みたいな物なんだけど、ファンタジーな世界であるここでは、それを魔法で作り上げているらしい。  ゲーム内のイベントでそのことを軽く説明されていたけど、実際に見るのは初めてだ。リアムとのデートが楽しみなのもあったけど、それを見るのもこっそり楽しみだったりしているので、デート続行の提案はすごく嬉しい。 「私、最後に上げられる光の花みたいです!」 「光花ですか…それじゃあ、とっておきの場所へお連れしましょう」  再び手を繋いで賑わう街中へ戻る時に、希望を言ってみたら彼は珍しく悪戯っぽく笑うと、ウインクを返してきた。 「ひぅ…!」  相変わらずの殺傷能力の高さに目眩がする…なんだよぅ…少年っぽい一面も持ち合わせてるとかずるすぎでしょう…推しが尊すぎて変な声まで出たよ…  咄嗟に片手で目を覆って、天を仰ぐなんて奇行を出た私を見ても、ただくすくす笑ってるだけのリアム…少し前まではどうしました?なんて声を掛けてきたんだけど、彼もしっかり私の扱い方を覚えてきていて…やっぱり、ずるい男だよ、この人は… 「はぁ…好き」 「有難うございます」
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