12月26日

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12月26日

   幸せな夢を見ていたような気がする。誰も助けてくれないと諦めかけていたところに、大好きな人が助けにきてくれる。まるで物語のヒロインのような…そんな都合の良い夢を見てた気がする。  寒かった体も、今はとても温かい。ぬるま湯に浸っているような気持ちの良い感覚が全身を包み込んでいる。 「ん…」  どれぐらい眠っていたんだろう…ゆっくりと目を開くと、そこにはゆらゆらと揺れている炎が見えた。 「え…?」  あれ、何で炎…?確か巨大キノコの下で雨宿りしているうちに、気を失うように眠ったような…理解が追い付かず、呆然と見つめていると、真後ろで温かい何かが身じろいだ。 「?!」  ななな何?!?!ゆっくりと首だけを回して確認をすれば…そこには、柔らかい笑みを浮かべたリアムの顔があった。 「ああ…目が覚めましたか?」 「リアム、さん…?」 「寒くはないですか?」 「え?!だ、大丈夫です…」  わけも分からず頷く。温かい。とっても温かいのは確かなんだけど…なんでリアムがここにいるの?もしかして本当に助けに来てくれたの…?あれって、夢じゃなかったの…?  自分でも分かるぐらいの間抜け顔で見つめていれば、察してくれた彼は苦笑を浮かべた。 「あー、夢だと思ってます?」 「えっと…はい…」 「現実ですよ、本当に君を助けにきたんです」 「現実…」 「ええ。意識を失っていたユノさんを見つけて、泣き疲れて眠った後に、ここに場所を移しました」  こちらの方が雨風を凌げるし、火も焚けましたからね、なんて説明をされたけど…私の頭はある一点へ完全に集中していた。  今、泣き疲れたって言ったよね…?もしかしなくても、怖かったって散々泣き喚いたアレを聞かれてたってことだよね…?!夢だと思ってたから、文句も言っちゃったような気がする…は、恥ずかしすぎる…!  声にならない声を上げながら、両手で顔を隠し悶絶…転がり回るのを抑えるほどの理性は残っていたけど、恥ずかしいものは恥ずかしい…! 「ユノさん…?」 「ひゃい…!」  不思議そうなリアムの呼びかけに、声が裏返える。少し距離を取ろうと体ごと振り返ろうとしたけれど、びくともしないことにここでやっと気付いた。  自分の体へ視線を向けて、絶句。マントみたいな布で覆われ隠されてはいるけど、裸だったのだ。慌てて下をまさぐり、ショーツは履いてることを確認。  パンツ一枚で座り込んでいる私を、後ろから抱きしめる形でリアムが座っていた。言わずもがな、彼も裸だ。あ、下着はつけてるのかな…伝わってくる体温がダイレクトすぎて、振り返らなくても裸なのが察せてしまいます…!  本番まではないけど、それなりにえっちなことをしてきた仲…おまけに恋人同士…なはずなんだけど、とんでもない状況に言葉が出ない…!  よくある体で暖め合うシーンと同じなのに、いざ自分がその立場になって分かる恥ずかしさ。恥ずかしさの上に恥ずかしさを重ねられて…なんかもう、頭がショートしそう…  わなわなと震えている私を怒ったと勘違いしたのか、後ろから謝罪が飛んできた。 「二人とも雨でずぶ濡れだったんです…!衣服を乾かさないと、熱を奪われてしまうので…やましいことはしてませんからね…?!」 「え、えっと…あ、ありがとう、ございます…」 「い、いえ…?」  私の反応で、見当違いだったことに気付いたようで…少しだけテンパり気味だったリアムの動きが鈍くなると、ユノさん?と再び声を掛けられてしまった。  びくっと肩を揺らすあからさまな反応を返した私の体を自由にするように、リアムが抱きしめている腕の力を抜く。  顔を近づけ横から覗き込んできたので、避けるように反対側へ体を倒す…まあ、リアムの腕の中に納まっているので、大した身動きもとれないんですけど… 「もしかして…照れてます?」 「は、はいぃ…」  今思えばリアムの裸って初めて見た気がする…実際視界に入ってるのは胸ぐらいまでなんだけど…!思っていた以上に筋肉が付いてがっちりしてて、綺麗な顔をしてるけど男の人なのだと意識してしまう。  目を合わせることは出来ず、下を彷徨えば胸筋が気になっちゃって…挙動不審なぐらい視線は泳ぎまくる。 「可愛い…」  息を吐くようにして笑ったと思うと、低く囁かれた。ゆっくりと迫りよる顔に、反射的に目を瞑ってしまう。やめろ、色気たっぷりな推しの顔は、どんな時でも私に効く…!! 「やましいこと、したくなるじゃないですか…」  耳元ゼロ距離で囁く声の色気がやばい…背中を走る鳥肌に声が漏れそうになって唇を噛みしめた。元の位置へ抱き寄せる様に力を込められ、体は再び彼の胸の中へすっぽり納まる。リアムの頭が頬へ移動すると、ちゅっと軽くキスをされ…そのまま離れていった。  抱きしめられている腕の力が込められ、ため息が聞こえ…それっきり、何も起こらない。 「あれ…?」  何もしない、の…?閉じていた目を開いて後ろを見ると、頬ずりするように彼の顎が私の肩へと乗ってきた。 「と思いますが、さすがに自重します…応急処置済みだと言っても、ユノさんボロボロだったんですから」  そういえば、魔力切れの気持ち悪さの方が勝ってたけど、体中も痛かったはずだ…それなのに、今はどこも痛くない…。もしかして、また貴重なアイテムを私のために使ってくれたのか…おまけにここは野外で学園内じゃない。売店内ならいくつか在庫はあるだろうけど、ここでは持ち分が無くなればそれで終わり…申し訳ないことをしてしまった。 「リアムさん…あの…」 「重くなるから要らないかとも思ったんですが…持ってきてて良かった」 「…すみませ、」 「ユーノさん」  遮るように名前を呼ばれた。下を向いていた視線を再びリアムの方へと戻せば、真横にある緑の目が不満そうに細められている。そこは、もっと別の言葉があるでしょう?と語りかけられているみたいだ。 「…ありがとうございます」 「はい、どういたしまして」  どうやら返答は正解だったみたい…にこっと微笑み返してくれて、ほっとした。なんだろう、リアムってこんな押し強かったっけ…?まあ、笑ってくれたし良いかな…? 「日が昇ったら移動しましょう」 「分かりました」 「まだ時間があります、眠ってて大丈夫ですよ」 「え…でも…」  さすがにこの状況で眠れないですよ…体勢もそうだけど、今もここは魔獣が発生している森の中なんだ。いつ襲われるか分かったもんじゃない。 「大丈夫、私の本業知ってるでしょ?」 「あ…」 「目だけでも瞑って、今は体を休めることだけを考えていて下さい」  さすが場数を踏んでるだけはある…リアムの言葉に納得してしまう。素人の上に魔力を消耗しきっている私じゃ足手まといになるだけなんだ…体力だけでもできる限り回復させよう。頷いて、大人しく目を瞑る。  落ちた時とは違って、今度は温かさと安心感に包まれながら、いつの間にか眠りに落ちてしまった。  ◆ 「おはよう御座います、ユノさん」  優しい声と揺さぶりに、薄く目を開ける。いつの間にかマントに包まって横になっていたみたいで、私の制服を持っているリアムが膝をついて覗き込んでいた。 「あれ?!」  マントを押しのけて勢いよく起き上がる。既に炎は消えて燻っているのに、小さな洞窟みたいな中は明るくなっていた。眠れないなんて言ったのはどこのどいつだ…しっかりばっちり朝まで眠りこけてしまっていた。 「やだ、私…!」 「眠れるときに寝るのは基本ですよ。それよりも…」  そろっと目を逸らしながら、リアムは手に持っていた物を差し出してきた。綺麗に畳まれている制服一式…あ、やだ、まって…そういえば、私、裸… 「ひょお!!」  奇声を上げながら制服を奪い取る。光の速度で後ろを向いて、とりあえず下着を身につけた。急いで制服を着込んでから振り返ると、リアムは洞窟の入り口近くで外を覗っている。めっちゃ気遣われてる…すみません…おまけに、私が横になっていたせいでマントを独占した上に、頭が痛くないようにとリアムの服を畳んで枕にまでしてくれていた…なんて、良い人なんだ…  衣服をまとめて腕に掛け、リアムの隣まで歩み寄る。外は相変わらずの岩だらけだ。 「ご、ごめんなさい…」  頭を下げながら衣服を差し出すと、気にしないでと笑いが返ってくる。気にしますよ、本当にすみませんでした… 「外套はユノさんが身につけて下さい」 「そんな…!」  私が枕にしていた売店で着ているのと同じ上着を羽織ったリアムは、マントの方は手をつけずに洞窟の中へと戻っていく。地面に置いてあったコートに腕を通し着込む彼を見て、どうするべきか手が止まる。  身支度を調え、火の始末をして…再び私の隣へと戻ってくるまでに答えが出ず困ってリアムを見上げると、無言でマントを手に取り私の肩へと回してきた。 「君、服だってボロボロなんだから」 「な、何から何まで…」  着付けまでさせてしまった…何やってるんだよ私は…!足手まといにならないようにって考えてたくせに、いつもより何も出来てなくて泣きたくなる。  首元を止めてくれているリアムの手を見つめて、ハッとした。彼の手は、あちこち怪我だらけで未だに血が滲んでいる…視線をあげれば、頬にも引っ掻き傷が残っていた。もしかして、この人、自分の怪我には薬を使わなかったの…?!  何でもっと早くに気づけなかったんだろう、私と同じように、彼だって消耗しているはずなんだ…! 「リアムさん、怪我…!」 「あー…やっぱり気付いちゃいました?」  ひどく動揺する私に、リアムは何でも無いように笑顔を返す。自身の手を握って確認するような動きを取ると、頷いた。 「大丈夫、見た目だけですよ」 「そんな…!私なんかに、使ったから…!」 「なんかじゃない」 「でも!」 「俺にとって、アンタは"なんか"じゃない!」  初めて聞くリアムの怒鳴り声。突然の出来事に驚き呆然としている私を見て、取り乱したことに気付いた彼は、慌てて口を抑えた。 「すみません…」  今度はとても小さな声だった。気まずそうに視線を泳がすリアムからは、いつもの余裕なんてまるっきり感じられない…普段の彼との温度差に、なんだか笑ってしまった。 「な、んで…笑ってんですか…」 「ごめんなさい…なんか、リアムさんが可愛くって…」 「はぁ?!」 「ふ、ふふ…ッ、あはは…!」 「ユノさん?!」 「ごめ、なさ…!」  頬を赤く染めるリアムに、なぜだか更に笑いがこみ上げてくる。そんな様子を見て、小さく舌打ちをしたリアムは、私の後ろへと回り込んできた。瞬間、私の体が宙に浮く。 「ひゃ?!」  リアムに横抱きされ近くなった彼の顔は、意地悪げな笑みを浮かべている。あ、待って、これはやばいやつ… 「恥ずかしがるだろうから背負って行こうと思ってましたが、気が変わりました」 「ま、待って下さい、リアムさん、話し合いましょう?」 「巻き込まれやすいくせに、自分のことを卑下するような人の話は聞きません」 「いや、それは…」 「まずはイヴァンのところに合流ですね」 「え?!ま、待って、合流する前に降ろしてくれますよね?!」 「は?降ろすわけ無いでしょう」  絶句する私を見て、話は終わりだとばかりにリアムは前を向いた。 「飛ばしますよ。舌を噛まないように、口、閉じてて下さいね」  なんだこれ!?いつも通りの優しい笑顔のくせに、全く優しくない!!そんな推しも、やっぱり大好きだけどね!!
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