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1月4日
よほど疲れていたのか、リアムは私の膝の上で本当に熟睡していた。
気配があればすぐにでも起きそうな彼なのに、本を読んだり紅茶を飲んだりと動いても、全く起きる様子が無い。
途中から本を読むことをやめた私は、眠るリアムへと視線を移す。白い頬へ指を滑らせば、すべすべな肌に驚いた。
特にケアなんてしてないだろうに、なんでこんなすべすべ…?ずるい…
「ん…」
指でむにむにと弄っていたら、嫌がる様に眉を寄せられてしまった。すみません…謝罪の気持ちを込めて軽く撫でて頬から手を離す。
それにしても、気持ち良く眠ってる姿を見てると、なんだかこっちまで眠くなってくるなぁ…大きく口を開けて欠伸を一つ。目を閉じたら、意識を手放すまではすぐだった。
なんか良い匂いがする…?ゆっくり目を開けば、いつの間にか大きなベッドの上で横になっていた。
「あれ…」
私ソファーで、リアムと一緒に寝てたはずじゃなかったっけ…?
むくりと起きて辺りを見回してみれば、隣接しているベッドルームのようだ。窓の外はすっかりと暗くなっている。やばい、どれぐらい寝ちゃったんだろう…朝だって寝坊してたはずなのに。
リアムは部屋に戻っちゃったかな…悪いことをしてしまった。落ち込み、ため息を漏らしたところで、隣から話し声も漏れ聞こえてくるのにもやっと気付けた。
男の人の声…一つはリアムっぽいけど…誰かと話してる…?そっとドアへ近付いて小さく開けて見る。中を覗いて、絶句した。
「いい加減にしろっての!」
「ああ、待ってリアムくん、これは唯一の私の楽しみなんだ…!」
「唯一じゃないですし、飲むならご自身の部屋でどうぞ。ユノさんの部屋で酒なんか飲むな」
「今日の会議頑張ったんだ…さっきまでやってたんだよ?!」
「兄上、これ要らないなら僕が貰いますね」
「あれぇ?!ラミも待って、それ私の好物だよ、知ってるよね?ねっ?!」
「久しぶりの城の料理は美味しいなぁ」
「あっ、そうだよね、久しぶりだもんね…あぁ…でも、一口ぐらい…」
どうしよう…凄く楽しそうに晩餐をしている男達が、そこには居た。
あれ?ここ私の部屋だったよね…?暖色の照明で照らされた部屋の中、ソファーに囲まれているテーブルの上には豪勢な食事が並べられている。
それを囲んでいるソファーに居たのは、昼間に会ったアレクと防衛戦以来のラミだった。ちなみにリアムは、アレクの隣でワインのボトルとグラスを取り上げている…
これは、一体…何が起こっているの…?
「あ、ユノさん…!」
気配を感じてすぐに気付いたのはリアムだった。私を見てすぐにこちらへと近付いてくる。
ここぞとばかりに取り返そうとするアレクの腕を軽々とかわして、取り上げたワインを死守してる辺りがさすがだ。
「すみません、騒がしかったですか…?」
「ううん、普通に目覚めただけですから。大丈夫です」
「良かった。本当は君が起きてから確認しようと思ったのですが…」
「ユーノちゃん。夕食を用意したんだ、一緒に食べよう?」
勢いよくリアムの背中から抱きつき覗き込んできたのはアレクだ。少し目元が赤いしほのかにお酒の匂いがする…既に一杯決め込んでいたのかもしれない。
いつも優しい表情を浮かべているリアムが、とっても迷惑そうな顔をしている…
「えっと…」
「迷惑なら言って下さいね、いつでも追い出しますので」
「そんな、大丈夫ですよ…!でも、本当に私もご一緒して良いんですか…?」
「勿論だとも!ユノちゃんのために用意をしたんだ。さあ、こちらへどうぞ」
リアムの後ろから離れると、今度は私の隣へと着て腰を抱いてくる。穏やかに微笑みエスコートしてくれる姿は紳士そのものなんだけど…リアムとのやり取りによって、落ち着いた大人な男性って印象は既に塗り替えられてしまっている。
ラミの隣へ案内され、その隣にアレクが座る。兄弟サンドされてしまった…こんな所に座ってしまって本当に良いのだろうか…
「お邪魔してるよ、ユノ」
「ラミ…」
「無事で良かった…怪我は大丈夫?先日の防衛戦の時、助けきれなくって…すまなかった」
「そんな!あんなのが相手じゃ仕方ないし…!ラミのせいじゃないですよ」
「いや、元を正せば研究室の暴走行為。それを止められなかったのは、僕たちの過失だ」
「う…!やめて、その話は止めてくれラミ…!さっきもそれで会議は荒れに荒れたんだぞ…」
「どこかの誰かがあそこの管理権を放棄したせいですね」
「私じゃないのに…!」
「能無しをのさばらせたのは兄上の責任では?」
「ユノちゃん聞いた?酷いと思わないかい?」
さり気なく小皿に取り分けてくれたアレクは、涙声になりながら手にしたそれを渡してくれた。王子様なのに凄く気が利く…本来は私がするべきなのに、大変申し訳ない…
そうですね!と大きく同意も出来ず…受け取りながら苦笑いを浮かべていると、ソファーの後ろからぎゅっと体抱き寄せられ自然とアレクとの距離が離れる。
このメンツで抱き寄せてくる人なんて一人しかいない…振り返れば、仏頂面のリアムがアレクへ視線を送っていた。
「近いです」
「リアムくんまで…」
「近いんですけど?」
「はい、すみません…」
しょんぼりしながら、一人分ほどの席を空けるように離れていく。アレクに対する当たりが強い…これが普通なのかな…少しは優しくしてあげた方良いのかな?
って思ったけど、すぐに立ち直った彼はリアムに座りなさいと空けた所を叩いて誘っていた。気にしてないのか…メンタル強いですね…。
王子二人の了承を得たリアムが、私の隣へと座る。すると、待っていたようにラミからグラスが差し出された。
「あ、ごめんなさい…!」
「気にしないで、今はただの友人としてここに居るんだしね」
「それじゃあ、私たちとユノちゃんとの出会いに乾杯しよう」
いつの間にか全員がグラスを手に持っている。私がこんな扱いを受けてしまって本当に良いのかな…今更ながらに心配になってしまう。戸惑いながらリアムを見上げれば、頷きが返ってきた。
おずおずとグラスを上げれば、アレクが乾杯と言ってくれて、皆が口々に乾杯と返す。少しだけ照れくさく思いながらも、私も同じように乾杯を口にした。
◆
お城へ滞在中、皆とワイワイ過ごしたのは最初の一日目だけだった。
次の日からは年末年始の舞踏会三昧のようで、アレクは全てに、ラミも一部に出席を義務づけられていたみたいだ。お陰でリアムと共にまったりとした時間を過ごすことが出来た。
料理は毎回豪勢な部屋用意…次の日の朝には申し分けなさすぎてどうにか出来ないかと相談をした所、リアムがかなりグレードの下がった庶民食を持ってきてくれるようになったのはとても有り難かった。兵舎にある食堂はテイクアウトも出来るらしく、そちらの食事を運んできてくれたのだ。関係者以外がそこへ入るのはよろしくないので、食堂へ行けなかったのは残念だったけど…一緒に部屋で食事をとれるのは嬉しかった。
読書をしてまったり過ごしたり、一緒にお昼寝したり…借りていた本を読み終わった次の日には、連れて行きたい所があると街へと連れて行ってくれた。
年末の街中は活気に溢れていて、いつもと違って見える。そんな中を、リアムが迷い無く手を握って歩いてくれて…幸せで顔がにやけてしまう。
どこへ行くのかはお楽しみですと言われ、連れて来られたのは近寄ったことも無かった劇場。おまけに演目は、昨日まで読んでいた本と同じタイトルで吃驚した。
気持ちが昂ぶっている最高のタイミングで、好きな作品の劇を見れるだなんて…!粋すぎる…!涙目になりながらお礼を言って入場して、感動してぼろ泣きしながら退場したのも良い思い出だ。
楽しかったお休みもすぐに終わってしまった。
後数ヶ月しか着ないと言うのに、新しい制服と靴を身につけているのは不思議な気分だ。あの防衛戦でボロボロになってしまったので仕方の無いことなんだけど…。
少しだけ硬く感じるジャボを弄っていると、隣から腕が伸びてきた。そのままジャボを手に取り直してくれるのは、見慣れた学園職員の制服を着たリアムだ。
「有り難うございます」
「いえいえ。さて、私はそろそろ出勤する時間なのですが…ユノさんはどうしますか?まだのんびりしている時間もありますよ?」
「一緒に行きます!」
ここから学園までの距離はそこまで遠くは無い。徒歩でも充分に行ける距離なので、二人並んで学園を目指し歩き出した。彼の手には、自分の荷物と私の鞄が握られている。部屋に置いてきたはずなんだけど…いつの間にか持っていることに関しては、触れないでおこう。
朝日を浴びながら歩く静かな街中は、中々に新鮮だ。休みの間に起こった思い出話をしながらのんびり進むのに、少しだけ青春を感じた。
人の居ない学園の敷地内へ足を踏み込めば、久しぶりな気がする。一週間程度しか離れていなかったのに、もうここは自分の家みたいなものなのかもしれない。
そのままリアムと一緒に売店へ直行して、彼の手伝いをした。本当にいきなり駆り出されたせいか、少しだけ散らかっていたのを片付け、品出しを手伝う。
私が朝に顔を出す時間には、すっかりいつも通りの綺麗な状態へとなっていた。すでに朝食は済ませてきていたため、のんびり紅茶を飲みながら過ごした。
ちらっと時間を確認したら、もういい時間になっていた。あれほど余裕があったって言うのに、長く一緒に居たいと思えば思うほどすぐに過ぎてしまう。今日からは授業がある…名残惜しいけど行かないと…。
「そろそろ行きますね」
「あ、もうそんな時間なんですね…」
またお昼にお邪魔しますと告げて立ちあがる。鞄を持って扉に向かって歩いてる途中、ノブへ腕を伸ばそうとした体は後ろへと引っ張られた。驚く暇も無く、強く抱きしめられる。
「リアムさん…?」
「すみません、少しだけ…」
肩へ頭を埋めて話しているせいか、くぐもった声が聞こえた。駄々をこねるように力を強める彼に、顔が緩む…何これ、可愛い…後ろ向いてて良かった…。
きゅんとする気持ちを胸に感じながら、自由に動く範囲でリアムの腕を擦る。少しでも好きが伝わるようにと撫でていると、深呼吸と共に解放された。
振り返れば、少しだけ寂しそうに笑うリアムと目が合う。
「ダメですね、この休みで手の届く距離に君が居ることになれてしまった…」
ううう、好きだよぉ…!抑えきれなくなった感情のまま、今度は私からリアムの胸へと飛び込む。ぎゅっと腰へ腕を回して抱きつき、ぐりぐりとおでこを押しつける。
「私だって行きたくないんですからぁ…!」
「…ふふ、二人揃って、欲張りになってしまいましたねぇ」
気の済むまでぐりぐりし続けても、リアムは何も言わず背中を優しく撫でてくれていた。ゆっくり顔を上げると、赤くなっちゃってますよと前髪を整えながら笑ってくれる。
ずっと触っていてもらいたいけど…本当にもう行かないと…
「リアムさん…」
名残惜しさを感じながら見上げ名前を呼んだら、予想以上にねだるような声が出てしまった…応えるように、目を細めたリアムの顔が近付いてくる。
自然と目を閉じれば、優しく触れるようなキスが降ってきた。すぐに離れて、もう一度…何度か繰り返していたら、角度が変わり、ぺろりと唇を舐められる。
「ぅん…ッ」
反射的に開くと、舌が入り込み絡め取られてしまう。絡み合った後にちゅっと吸い上げられて、ぞくぞくとした刺激が走った。気持ち良くて力が抜けちゃいそう…震え出した膝へ力をいれた所でリアムの顔が離れていく。
あれ…やめちゃうの…?リアムとするキスはすごく好きなのに…気持ち良いのもなんだけど、幸せな気持ちになれるんだもん…もう少しだけしていたい…。
うっすらと目を開ければ、燻った熱が篭った深い緑に射貫かれる。それにすら快感を感じるのか、背筋に鳥肌が立った。
「こら…!」
息を吐き出しながら困ったように笑うけれど、未だに視線は熱い。焦れるような視線を見つめ返すと、いきなりむにむにと頬を揉まれた。
「ひゃにを…?!」
「君ね…そんな顔をして…食べちゃいますよ?」
むしろ、食べて欲しいんです…頬を揉みしだかれながら心の中だけで反論していたら、扉に付いているベルが鳴った。その音に、私だけじゃなくてリアムも驚き大袈裟に肩を揺らす。
「あ~…お邪魔だったかな…?」
「い、いえ…!いってらっしゃい、ユノさん…!」
「ひゃ、ひゃい…!いってきます…!」
ちょこっとだけ見せてくれた夜を思い出させる表情は一瞬で消え、優しい売店のお兄さんへと戻る。彼にしては、珍しく焦りながら私の肩を掴むと勢いよく回転させ扉の方へと方向転換をさせられた。
もう日課になってしまったのか、迎えにきたラミの元へと逃げるように走り、売店を出た。教室へと向かって歩き出した私を見てから、ラミも後を追うように付いてくる。
隣へ並び私の顔が視界に入った途端、ため息が聞こえた。呆れられてるのぐらい、分かってるよぉ…!
「あー…ユノ、君、遅刻してきた方が良いと思う」
「え、な、なんでですか…?!」
勢いよくラミを見上げたら、視線を逸らすように前へ向く。少しだけ赤くなった頬を掻きながら誤魔化すラミをしつこく見つめると、降参と言わんばかりに大きなため息をもう一度吐かれた。
「…顔、すごい蕩けてるよ」
「…え?!」
「今まで抱かれてましたって顔してる」
「えぇえ?!?!」
「ユノも女になったんだね…」
「ち、違う…!違うの、ラミ…!」
「分かってるよ…何も言わなくて良いから…」
「話聞いてよ-!!」
教室へと向かう途中、廊下には必死な私の叫び声が響き渡る。絶対にラミ面白がってるよ…!!うん、そうだねって笑顔で流して全く話を聞いてくれない。取り合ってくれないと分かってるのに、言い訳をするのを止められなかった。
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