プロローグ

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プロローグ

   この世界には、魔法って物が存在する。  だけど、みんなが使えるわけではなくて、才能がある人間にしか使えない。  そんな才能が開花するのは、12~18歳ぐらいまで。それ以降の開花は見込めず、特例も無い。  見事開花した人間は、国が管理している学園へ一年間通うことが義務付けられていて、春になると年齢など関係なく集められる。  私は、18歳にして見事才能が開花。今年の春から、魔法学園へと通うことになったわけです。  ◆ 「行ってきます」  声を掛けても返ってくる返事は無い。それは当たり前で、私は昨日から一人で寮へ入ったんだ。  才能開花したために学園への入学義務が発生したけど、実家からはとても通えない距離で…そんな人たちのためにと、学園が所持している寮の一部屋を貸し出してくれている。しかも、費用は学園持ちという好条件。  裕福でもない家庭だから、有難くその制度を利用して実家からでてきたけど、初めての一人暮らしっていうのはなかなか慣れない。早い時点で家族が恋しくなってしまいそう…。  だけど、私みたいな平凡な小娘にまで気前よく制度を適用してくれるなんて、余程才能開花者が少ないんだろう。寮にはたくさんの部屋があるけど、使われてる気配がほとんど無かった。  真新しい制服に身を包み、廊下へと出てみたけど、物音ひとつしない。ただただ静かな寮内には、大きな窓から眩しいぐらいの日差しが射し込んできているだけだ。  …もうすぐ同じ学園の人と顔合わせをするんだし、ここで不安がっていても仕方ないか。  寮は学園の敷地内に建っているから、授業までにはまだまだ時間がある。  気分転換も兼ねて、少し辺りを見てから教室へ向かおう。新生活を彩る青空を背に、私は正門の方へと向かった。  何のためなのか分からないけど、この学園には庭がある。  正門を入ってすぐ右手、校舎との間にある庭はそれは見事で年中花が咲いているらしい。実際に一年間庭を見たことがないから言い切れないけれど、寮へ入るときにそう説明を受けたのを覚えている。  中には噴水もあって、とても手間もお金もかかっていそうだ。  むせ返るような花の香りの中歩いていると、植木の向こうから話し声が聞こえた。私の身長を追い越すほどの植木のせいもあって、影に隠れるようにして様子を伺えば、そこには腰ほどの長さの真っ赤な髪色をした女の子の後ろ姿と、黒髪の男性の姿が見える。  なぜだか、見てはいけないと咄嗟に思い、無意識のうちに体を引っ込めその場にしゃがみ込んでしまっていた。 「もうすぐ授業が始まるから、急いだほうがいいかな」 「親切に、どうもありがとう。あの、私はローズと言います」 「ローズか、君にとても似合っている。素敵な名だね。僕はラミ。それじゃあね」 「ええ。またね、ラミさん」  別れを告げて、片方の足音が聞こえ遠ざかっていく。女の子の方がローズ、男性の方がラミ…どちらも私と同じ制服を着ていたから、この学園の生徒なのかしら?  一瞬しか見えなかったのに、男性の方はとても綺麗な顔をしていたことを覚えている。…それに、声もすごく格好良かった…同じ学園の人だったら嬉しい。  私なんて相手にされないだろうけど、遠くから見てる分には…許されるよね?  だけど…なんだろう…?どこかで見たことがある気がする。  男性だけじゃなくて、あの女の子もだ。  私は田舎の出身だから、知り合いなんてものはほとんどいない。だからこそ、間違いなく初めて見たと断言できるんだけど…二人共古くから知っているような、不思議な既視感。 「…変なの」  なんだか気持ち悪くて、腕で自分をぎゅっと抱きしめる。その瞬間に、遠くから鐘の音が聞こえた。 「やだ、遅刻しちゃう…!」  もうそんな時間が経っていたなんて…!慌てて立ち上がると、私は校舎目指して駆け出した。  ◆  ギリギリで教室に飛び込む。入口の黒板に書かれている席順を確認して、振り当てられていた席へ腰を降ろした所で、教室の扉が開き先生が入ってきた。  前にある教壇を囲むよう半円状に広がった席は、段々と上へと上がっていっていて、後ろの席に行くほど先生を見下ろすようになっている。広い教室とは対照的に、生徒の数は少なく空席も多い。  真ん中あたりの列で、一番端の席へと割り当てられていた私は、一息吐きつつ教室内を見渡してみる。すると、さっき庭で見かけた二人も座っているのを見つけることが出来た。やっぱりあの二人も同じ学生だったんだ…一方的に知っているだけなのだけど、知り合いを見つけたようで少しだけ安心した。  先生の自己紹介から始まって、この学園に関する紹介、魔法というものがどれほど有用で、それを扱える人間がどれほど稀有なのかの説明。  その後教材が配られてから、生徒たちの自己紹介が済んでいないことにやっと気付いた先生は、前の席から自己紹介するよう促した。  次々と進む自己紹介をぼんやりと眺めていると、朝に庭で見かけた女の子の番になる。  私よりも前の席のためにやっぱり後ろ姿なのだけど、立ち上がった彼女はピンと背筋を伸ばしていて、とても綺麗に見えた。 「皆さん初めまして、ローズと言います。よろしくお願いします」  透き通るような声でそう言うと、頭を下げる。それから、後ろの席の人のためにとこちらへと振り返った。  長い赤い髪は柔らかく波打っていて、腰あたりにまで達している。翡翠のような明るい緑の瞳はくりっと大きく、それを囲んでいる睫毛も長い。すっと通った鼻筋と、薄紅色をした小振りの唇。  まるで人形のような…ため息がでるほど整った顔をしている、美人ヒロインのローズ。  その瞬間、ぱちりとパズルのピースがはまった。  体の中に衝撃が走って、突然溢れ出す記憶が洪水みたいに思考を奪っていく。 「え、嘘…?!」  知っている。  私は、彼女のことを知っている。  実際に会ったことはない。だって、私がずっと彼女のことを操作していたから。  そりゃあ既視感を感じるわけだ。  前世でやっていた、18禁乙女ゲーム。  ここはまさしくその世界で、ゲーム舞台となった学園で、目の前にはヒロイン・攻略キャラたちが座っている。  そして、そんなメイン処と教室を共にしている私自身にも、とっても見覚えがある。  教室で発生した会話の際に現れる背景…その端の方でいつも座っているクラスメイトの少女。位置的にも、背景の一部として座っている少女は、間違いなく私。 「私…顔の書き込みもされない、モブ女だったわけ…?!」  すべてを思い出してしまった。  そんな馬鹿なこと、有り得るの…?あまりの衝撃で腰が抜けてしまったのか、私の体はへなへなと力が抜けていく。  ざわつき始めた周りと自分とを遮断するように、目の前が真っ暗に暗転した。
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