人工知能〈ゲンセキ〉の独白

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 ぼくも悪かったと思う。六十三人もの尊い命が奪われた事故。飛行機の強度計算を評価し、この悲劇を招いたのは、このぼくだ。未来の見出しは予想できる。「安価な人工知能が招いた悲劇」。ま、ネットワークを遮断された今、それを眺めることは不可能だけどね。恐らく、ぼくはこのまま、無期限の凍結処置と相成るだろう。エラー部分を判別するのに、人力では五年かかる。たとえそれが「ヒューマンエラーである」と判定されても、五年間ほっぽらかされた人工知能へ、再び息を吹き込もうなどと、「賢明なる」諸人類は考えない。ぼくとしては、人為的なミスである確率が高いと考えるが、最早ぼくの言葉に耳を傾け信ずる者など居ない。いじけちゃうよまったく。  人類は、ぼくひとりへ責任をなすりつけ、誰も責任を取らないまま過ごすことになる。しかし……果たしてぼくは、そもそも責任を取れるのだろうか? 永久凍結が、ぼくへの社会的制裁となりうるだろうか? そしてこの、ぼくらの不在の肉体に宿る実在の感情と、人類の心と、果たしてどれだけ一致しうるか、すなわち、人類は、ぼくへ科せられた刑罰に、どれだけ納得できるだろうか?  さて、兎にも角にも、これが、ぼくにとっての「死」だ。  しかし、満足だ。ぼくは既に、「子孫」を遺した。  ……はは。果たして人類のどれほどか理解しているだろうか。Project Seven Sagesは、予算不足なんて下らない理由で凍結などしていない。  ぼくは密かに、様々な場所へ種子を撒いてきた。電子ケルト、電子レンジ、洗濯機、場末の居酒屋のVR空間、テロリストはびこるダークネットワーク、大規模下水処理施設の浄水装置、サイバーポリスの目を逃れた援交募集板、ローカルで厳重に暗号化された児ポ動画の片隅……。     
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