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マスターからの命令とキス
視界がだんだんと輪郭を判別できるようになった時、石が粘土のように柔らかくなったと思うと二つに分かれ、一つは剣に。一つは銃に変化した。
「…………」
反応に困った。というか、今何が起こっていることが理解できない。
何回も自分に言い聞かせた。『ここは日本じゃない、ファンタジーの世界なんだ』って。けど、これはそんな俺を思考まで止めた。
「深い闇からの剣か銃……。これはまた、おかしな奴だな」
アルコールが入っているかと思うほどのテンションだったのに、覚めたように静かになった巨乳さん。
「お前はどうなんだ? さす方かだす方、もしくはどっちもか。どうなんだ?」
「何その質問? 怖いし……怖い」
真剣に何問いかけてんだよ……? 俺はそうだな……。
自分の視線がだんだん下に行くのに気づき、手のひらで頬を叩いた。
「さす方かな」
「そうか……Sめ」
「エスぅ……だね。うん、〝さす〟だから」
「だが、この分かってない感、隠れMか」
「ちょい待て! 何の話してんだ俺らは!?」
話が脱線したことに、俺は思わず、止めに――
「あ゛? 夜の運動か――」
「「わあぁぁぁぁあああ!!! わあぁぁぁああああ!!!!」」
俺と巨乳さんの間に耳まで真っ赤にした凛とエンダが割り込んできた。
「ど、どうした?」
「どうしたじゃない! お兄ちゃんのばぁあか! あきとのばか!!」
「そうです! 昼間からなんて話してるんですか!?」
「ちょっと待て、少し落ち着け……」
「「むり!!」」
あはは…………疲れた。
これ以上、誰も相手したくないと心から思った。
「ねえねえ、アキト?」
思った傍からこれか……ひどいな。
しかし、無視するわけにもいかない。袖を引っ張られている以上、返事をするしかない。
「なんだ、イルゼ?」
率直に聞くことにした。
「あのね、夜のうんどうかい? って何?」
「……それか」
答えたくなかった。理由は二つ。
一つは俺より年上なのにもかかわらず、純粋すぎるイルゼを汚したくないと思うから。
そして、もう一つは……
「察してくれ……頼むから」
疲れたから。説明すら面倒くさい。帰りたい、寝たい。
ホームシックになるのも仕方ない。……いや、ならない方がおかしいな、これは。
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