12月8日(土)

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12月8日(土)

昼と夜では街の様子が大きく変わる。 夜は電気装飾で飾られていた街も、昼間はいつもの街並みのままだった。 文房具屋に向かっていると、うしろから声をかけられた。 「あれ? 佐々木さんじゃないですか!」 振り返るとショートヘアの女性が立っている。…だれだろう? 誰だかわかっていないことが彼女にも伝わったのだろう。苦笑いしながら続ける。 「あ、えーと松本希です。ボランティアの。」 「あぁ…! ごめん。普段と違っていたから気付けなかったよ。」 嘘。まだ誰かピンとは来ていないが話を合わせておく。 「よかったー。おぼえられてないのかと心配しました!  あ、佐々木さんは、今度のクリスマス会は参加しますか?」 「するよ。毎年のことだしね。」 彼女はパァッと顔を明るくする。 「よかった! 佐々木さんのマジックは凄いって聞いたから楽しみにしていたんです。  私も人形劇、負けないように頑張りますね!」 あ。 ここでようやく誰か気付いた。人形劇のクマ役の子だ。 歳はたしか18歳で…大学生と言っていたかな。 若い女性ということで、今年34歳になるおっさんには関係ないとすっかり忘れていた。 「今日はお買い物ですか?」 彼女は話を続ける。話好きのようだ。 「あぁ。仕事も休みだし買わなきゃいけないものもあったしね。」 「そうだったんですね。あ、じゃあ私もう行きますね!」 彼女はペコリとお辞儀をして人混みの中に消えていった。 …よかった。このまま何を買うかまで聞かれたらどうしようかと思った。 日記帳を買いに来たと正直に言うのは少し恥ずかしい。 気を取り直して文房具屋へ足を向けた。
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