12月23日(日)

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12月23日(日)

会場は盛大な拍手に包まれた。 今日は地域の老人ホームのクリスマス会。 俺はボランティアの一員としてマジックを披露し終えたところだった。 「佐々木さん! 本当に凄かったです!!」 松本希が駆け寄ってくる。相変わらず明るく笑う子だ。 「ありがとう。松本さんのクマも、とても元気がよかったよ。」 適当な社交辞令の返事だが、彼女は更に明るい表情になる。 「本当ですか?!  ベテランの佐々木さんに褒められるなんて、みんなに自慢できちゃいます!」 ベテラン…確かに十年以上居ればベテランなのだろうが考えたこともなかった。 「あ…あの…」 急に彼女は声を潜めて続ける。 「この後…少しお時間いただけますか?」 俺は駅に向かって歩いていた。うしろには松本希が付いてきている。 「…話は喫茶店とかで良いかな?」 急に振り返って言ったのがマズかった。彼女は見てわかるくらいビックリしていた。 「あ…は、はいっ! あ、えーと…あまり人のいないところのほうが良い…かもです。」 やはり愛の告白的なものだろうか。 「じゃあ、公園とかのほうがいいかな?」 変なことを考えるのはやめておこう。 「はい、すいません突然。今日どうしても伝えたくて…。」 …変なことを考えるのはやめておこう。 「はい。ミルクティーで良かった?」 彼女はありがとうございますと言って、缶を受け取った。 少し距離をとって隣に腰掛ける。 いつもの明るい表情は無く、何かを必死に切り出そうとしている。 さて、何が飛び出すのか。 しばらくの沈黙のあとに、彼女は決心したように口を開く。 「『三浦早紀』を…覚えていますか?」
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