12月24日(月)

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12月24日(月)

世間一般的には清々しい朝なのだろう。しかし、俺にとってはそうではない。 今日が祝日の振替休日で良かった。このままでは仕事へは行けそうにもない。 それほどまでに昨日の松本希の発言は衝撃的だった。 『三浦早紀』 その名前を聞くことは、もうないと思っていた。 「もう18年になるのか…」 自然と口から漏れた。 あの人と知り合ったのは、俺が16歳のとき。 あの人は18歳で先輩だった。 放課後の教室でマジックの練習をしていた時に出会い それから毎日のように来ていた。 マジックを披露するたび短い髪を揺らしながら大喜びする。 子供のような人だった。 「貴志くんって、魔法使いみたい!」 俺はそんなあの人に惹かれていった。 「交換日記しよ。昔からやりたかったんだ!」 いつもの笑顔から始まった交換日記。 はじめは気恥ずかしかった。 でも、あの人の見ている世界がわかるのは嬉しかった。 「これ、いつもマジックを見せてくれるお礼!」 『佐々木貴志』と書かれた手作りの名札。 今でも宝物だ。 少し胸に苦いものがこみ上げる。 雪が降っていた。 いつも来る、あの人が来なかった。 そんな日もあるかと普通に帰った。 母親からそれを聞いたときは頭が真っ白になった。 「今朝、近所で女の子がトラックに轢かれたんだって。」 気付いたら、走っていた。 走っていた。 どこに行けば良いかも知らず。 別人かもしれないのに。 別人かもしれないのに…。 次の日もあの人は来ていなかった。 別人であってほしいのに…。 結局、別人ではなかった。 お通夜。 いつもの笑顔が写真の中にいた。 直接、あの人の最後の顔は見られなかった。 「ごめんなさい、あなたの中の早紀を壊したくないから…」 あの人のお母さんは、必死に声を振り絞ってそう言った。 酷い事故だったというのは、後日知った。 いつの間にか眠っていた。 太陽は傾き始め、部屋が真っ赤に染まっている。 昨日あの人の名前を聞いてからどうやって帰って来たのか、あまり覚えていない。 ただ、携帯には松本希の連絡先が入っている。 明日、彼女に聞こう。 なぜ、あの人を知っているのか。
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