プラハの街角にて

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 川沿いのベンチに座って夜風に頭を冷やしていると、向こうから木の枝を持った女性と両手でくす玉を抱えた男性の二人組が歩いてきた。二人は私を通り過ぎ、そして振り向いた拍子に目が合った。木の枝を掲げる彼女に合わせて右手を挙げると、二人は顔を見合わせて笑った。それからまた前を向いて歩き、少し離れた場所にある木にくす玉をぶら下げ、彼女は精一杯に木の枝でくす玉を打った。けれどくす玉はただ右に左に揺れるばかりで、一向に割れる気配を見せない。彼がくす玉を石畳の上に置き直し、彼女は今度こそ渾身の力で木の枝を振り下ろす。  割れたくす玉はピザのように拡がり二人を包んだ。そしてそのまま空へと昇って行った。くす玉に包まれて二人はキスをしている。  夜空の彼方へと消えた二人を見送って、私はベンチから腰を上げた。空からは粉雪が降り出した。  さて、この雪は積もるだろうか。
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