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「働きすぎなんですよ、編集長は!」
「悪い。迷惑かけた」
あまり覚えていないが、俺は嶋田と話している最中にぶっ倒れたらしい。
ぺーぺーの嶋田だが、救急車を呼んで付き添ってくれて、たった1日の検査入院にわざわざ見舞いにまで来てくれた。
「ねえ、バイト入れましょうよ、バイト!出来れば、若い女の子!」
嶋田はここぞとばかりに要求してくる。面倒なやつに借りを作ってしまったと、溜め息しかでない。
「お前も知ってんだろ?この街は極端に若い女が少ないってこと」
それは、この街でだけ語られる都市伝説のようなものだった。ある一定の年齢を越えた女は、この街からいなくなると。
「それ、前から不思議に思ってたんですけど、何でですか?」
「さあな。色々な噂は流れてはいるが……若い女の嫌がる電波や臭いが充満してるからとか、昔話のように鬼が山奥に連れて行ってしまうからとか」
「へえー……案外、鬼に連れ去られるってのが本当だったりして」
「そんな訳あるか!単に女子の出生率が低かっただけだ。それだってなあ、年々回復してきて…」
「本気で怒らないでくださいよ、軽い冗談なんですから」
「いや、悪い。つい…」
嶋田の言ったことが冗談だと分かっている筈なのに、この街を悪く言うことに理由の分からない焦りを感じて怒鳴ってしまった。
「山奥って言えば、編集長知ってますか?中学生の間で噂の学校、小此鬼山高校。山奥にある全寮制の学校なのに、みんなそこに行きたがるそうなんすよ。ちょっと調べてみましょうか?」
「止めておけ」
「何でですか?」
「………分からん。だがな……すごく、嫌な感じが、する…」
「編集長……大丈夫ですか?」
聞いたこともない筈なのに何度も耳にしたそんな不思議な感覚と、理由の分からない恐怖が、俺の心を占めていた。
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