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「編集長!小此鬼山高校て知ってますか?」
「知らん」
新人の嶋田が、人懐っこい顔をして何やら話しを振ってきた。
「えー!知らないんですかー?すごく有名なんですよー!」
わざとふざけた言い方をして、俺の興味を引こうとしている。新人ながらその姿勢は評価出来るから、そのまま話しを聞いてやることにした。
「そうなのか?それで、その高校はどこにあるんだ?何で有名なんだ?」
「分かりません」
「お前、俺をからかってんのか?いい度胸してんな」
「違います!違います!どこにあるのかどんな学校なのか知られていない。なのに、有名なんです!」
人差し指を立てて、前のめりになってきた。
「なんだそりゃ?」
「情報通の編集長なら、知ってるんじゃないかと思ったんですけどね…」
「本当に有名なのか?」
雑誌編集に携わって早○十年。分野外とはいえ、本当に有名なら名前くらいは聞いたことがある筈だが、その名前には全く聞き覚えがない。
「有名らしいですよ。中学生の間では、超エリート校だって話です」
「なんだ?子供の噂か?どうせ実在しない都市伝説みたいなもんだろ?」
「俺もそう思ったんですけどね……でも、実在したんです!」
「どこに?」
「教えてくれませんでした」
「はあ?」
「近所に住んでるいとこが、そこに合格したって教えてくれて。『全寮制だから時々しか会えなくなるけど、寂しがらないでね』て言われました」
言い方がマセガキだなと思ったが、そこは関係ないので聞き流す。
「すごい秘密主義の学校で、住所とか部外者にはぜっっったいに教えちゃいけないそうです」
「変な学校だな」
「なのに、中学生、特に女子の間で大人気だとか。変な学校ですよね?」
「そうだな」
「俺、ちょっと調べてみますね」
「はあ?なんで?」
「来月、入学式があります」
「そうだな。何処でも入学式くらいするわな」
「叔母に頼んで、一緒に連れて行ってもらうことになりました。ちょっと潜入取材してきます!」
「そんなもん記事には出来んぞ」
「いいんです!ジャーナリストとしての、純粋な好奇心です!」
「ジャーナリストね…」
「という訳で、有給休暇ください!」
「………………」
潜入取材と言いながら、有給休暇を取りたいだけの作り話なんじゃないかと思いながら、俺は休暇を許すことにした。
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