第1章

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 「気づいていないだけだ。お前の憎しみの強さが私を呼んだのだ」  悪魔の一言で笠原の頭は一気に冷静になった。というより悪魔の言葉に納得してしまったのだ。こんな理不尽をまじめに働いてきた自分が味わうのは何かの間違いだ。きっと誰かが救いの手を差し伸べてくれる。この間違いを正してくれる。笠原は本気でそう思っていた。その救いの手が人外の輩から差し伸べられるとは。笠原は思わず笑ってしまった。  「それでどのような力を授けてくださるのでしょうか?」  「まあ、そう慌てるな。これは貴様の都合のいい世界を創り出す力だ」  「どういうことですか?」  「まあ実際に見た方が早いな。見てみろ」  悪魔の向けた顔の先には笠原の中学校の時の同級生二人が汚いものでも見るような目を笠原に向けていた。悪魔は笠原の耳元で囁いた。  「奴らに手のひらを向けろ。そして、奴らをこの世から消してやると強く念じろ」  笠原は言われたとおりにした。橋の向こうの二人は笠原の動きを見て警戒した。しかし、そんな警戒の動きも笠原を蔑む眼もすぐに消えた。笠原を気にする様子もなく二人は町の方に歩いて行った。  「何をしたのですか?」笠原は白い顔で悪魔に尋ねた。  「あいつらはお前という人間を忘れた。そして世界もお前とあいつらの関係を忘れた。それがお前の力だ」悪魔は不敵な笑みを浮かべた。  「なるほど、この力を使えば俺は復讐したい人間たちの人間関係の外に立つことが出来るという訳ですね。これなら物理的に失敗しない限り警察も世間も俺と会社の関係を見抜くことは出来ないということですか」  「そういうことだ。この力でお前が何をするか。空の上から楽しく見させてもらうよ」  その言葉と共に悪魔は天に帰っていった。  口をぽかんと開けたまま空を見上げた。本当に現実なのか、笠原自身まだ現実味を感じることができなかったが、あの同級生二人の自分に興味を失った目を思い出すとこの力が本物だという確信を持つことができた。  笠原は早速、復讐に動き出した。笠原の内心はもう悪魔に成り下がっていた。  まずは俺を馬鹿にした地元の同級生たちからだ。俺を見るたびに馬鹿にするような眼をして、何も知らず人を蔑む傍観者も会社の奴らと同罪だ。
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