第1章

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 タイトル  「更生刑」    「本当に後悔していないのか?」  「後悔?人を殺したことを?それともお前らみたいな間抜け共に捕まったことを?」  裁判の最終日。黒川登也のあの澄ました態度は最初の日から全く変わらなかった。水沢和夫はめまいがするほどの怒りをなんとか押し殺し、被告人席に立つ男を見た。  二千四十八年、六月八日、黒川登也は俺の妹を殺した。  和夫はとある製紙会社に勤めていた。妹の殺された日も会社でいつも通りの仕事をしていた。そんな日常が会社にかかってきた母からの電話で壊れた。今まで聞いたことのない母のうわずった声は裁判中も和夫の耳に残っていた。  和夫の妹を殺した犯人はすぐに捕まった。その犯人が有名な連続殺人犯だと知った時、和夫はただ現実を信じられなかった。ごまんといる人の一人である妹がテレビに映らない日がない程世の中を震撼させている殺人鬼に殺される、そんなことが自分の身内に起こったことに現実味を感じることが和夫には出来なかった。  裁判はあっという間に始まり、あっという間に終わろうとしていた。和夫はここにも実感を得ることが出来なかった。昔は時間をかけて裁判をしていたらしいが、犯罪の多様化、犯罪者の急増の影響でスピード裁判が世の中の常識になっていた。和樹の妹を含めた黒川に殺された十三人の裁判も一か月もかからなかった。  「最後に遺族からの被告人質問を」裁判長が淡々といった。  かなり昔から被害者参加制度というものはあったらしいが犯罪が急増をした今の世の中で一般人が犯罪と向き合うためにこの制度は一般化されていた。  三十人以上いる遺族が皆悲しみに顔を歪ませながら黒川に叫ぶ。だが、黒川は壊れたおもちゃを見るような退屈な眼をしていた。  最後の質問者は和夫だった。和夫は激しい怒りを抱いていたが、それ以上に目の前にいる男が全く理解できないという一種の恐怖を感じていた。  「あんたは・・・なんであんなことをした?」和夫は氷の瞳で黒川に尋ねた。  黒川は軽く頭を掻いて、無表情のまま和夫を見た。  「なんで?さあ、なぜだろうな?うまくは言えないが殺したいと思ったから殺したとしか言いようがないな」  「罪悪感は・・・心は痛まないのか?」
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