第1章

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 裁判長は淡々とした口調だがその目の奥には軽蔑と憐れみの炎が燃え盛っていた。  「そして君のような人たちは今の世界には掃いて捨てる程いる。もうただ罪を償わせるだけでは足りない。必要なのだ、心を取り戻すことが。それがどれだけ辛いことだとしても」  裁判長は軽く一呼吸置いた。  「これは死刑よりも重い刑だ。苦しみのあまり途中で君は死ぬかもしれない。だが君にはこの刑を受けてもらう」  「更生に苦しみなんてあるのかね?もっとそんなもの俺には必要はない」  裁判はこうして終わった。黒川は軽い足取りで退室していった。  「なんだ。結局殺す気満々じゃないか」  小汚い金属製の壁に囲まれた小さな部屋に入った黒川が最初に目にしたのは大量の機会につながれている椅子だった。  「電気椅子であの世へ連れて行っていくなんてひどいことするするぜ。苦しみのあまり死ぬというのはこのことか?」  黒川は同じ部屋にいる数人の白衣を着ている男たちに世間話でもするように話しかけた。  「勘違いするな。これは電気椅子などではない。これは更生刑のために作られた機械だ。更生刑はこの機械をもって執行される」白衣の男は答えた。  「へー、なあ、いい加減その更生刑とはどんな刑なのか、ぜひお聞かせ願えないかな」  黒川は白衣の男の一人の顔を覗き込むようにして聞いた。  「まあ、こんな機械でちょっと頭の中いじったところで俺の考えは変わらないと思うがね」  「今から君にはある少女の人生を追体験してもらう。君が殺した少女の一人、水沢瑞樹の人生を。自分の殺した少女がどんな人生を歩んできたのか、君に追体験させることで自分のしたことの罪深さを理解させ、更生させることがこの刑の目的だ」  「へー、今の技術はそんなこともできるのか、ちょっと面白そうじゃないか」  嬉々とした黒川の目がまっすぐに白衣の男を見つめている。白衣の男も黒川を見つめ返し、二人の間にかすかな沈黙が訪れた。その沈黙を別の白衣の男が破った。  「もう時間だ。早速始めよう。機械の設置と確認を頼む」  白衣の男たちが周りの様々な機械を軽く点検してから、黒川に金属製のヘルメットらしきものを被せた。それから、黒川の体のいたるところにコードを繋いだ。  「何か・・・言い残すことはあるか?」白衣の男は感情のない声で黒川に聞いた。  「別にいいよ。何か言い残したい相手もいないからな」
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