第1章

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 黒川(瑞樹)は六歳になった。家族という慣れない存在にやっとなじみ始めた黒川は退屈していた。だが、このころから黒川は自分(瑞樹)がどれだけひ弱な存在か手に取るようにわかるようになった。この年頃はよく動き回り怪我をする。自分では何もしていないのに怪我の痛みだけは共有されるため黒川は困り果てていた。そして、怪我をしたときの痛み、友人と遊んでいるときの疲れが自分(瑞樹)はどれだけか弱い存在か黒川に教えていた。  自分が殺した少女は生きていたのだ。そんな単純な答えが何度も黒川の頭の中に去来した。それほど、小さい子供のエネルギーは生きているという実感を恐ろしいほど感じさせるものだったのだ。  そんな頃、自分(瑞樹)の母と兄がけがをした。原因は黒川(瑞樹)だった。黒川(瑞樹)は家族で買い物をした帰り道で川に落ちたのだ。一緒にいた兄と母は血相を変えて、無我夢中で川に飛び込んできた。二人とも泳げないにも関わらず。  結局、通りかかった学生たちに全員助けてもらった。一応のため、全員病院で軽い検査を受けたが大きな怪我もなく、すぐに帰ることができた。  夕日に照らされた河川敷近くの帰り道、自分(瑞樹)の母におんぶされながら黒川は自分(黒川)の家族のかすかな記憶を拾い集めていた。  俺の母親はクズだった。物心ついたばかりの息子に盗みや詐欺の手伝いを平気な顔をしてやらせるような親だった。だが、その時の俺は母親のことをクズだなんて思っていなかった。ただただ家族というものはこういうものかと思っていただけだ。お互いの利害のために協力する関係、実際、俺も母親を利用して警察に売った身だ。それが家族だと思っていた。  でも、自分の危険を顧みず助けようとする家族もいる。生まれて初めて黒川は胸が締め付けられるような痛みを感じた。このとき、黒川は罪悪感というものを感じようとしていた。  その日の夜ご飯はさんまの塩焼きだった。黒川はこれが自分(瑞樹)の好物だと知っていた。本来なら料理が苦手な父親が自分(瑞樹)のために作ったらしい。黒川(瑞樹)たちが家に帰ってきたとき、か細い体で力いっぱい黒川(瑞樹)たちを抱きしめてきた。そして泣きながら今日は自分が料理を作ると叫んだ。  丸い食卓にホカホカの白ご飯と野菜炒め、さんまの塩焼きが並んだ。黒川(瑞樹)は家族の顔を順々に見た。
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