第1章

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 これが普通の家族なのか。こんなに温かいものがそこら中にあるのか、なんで俺にはなかった?俺は一度でもいいから、こんな風に家族で食卓を囲いたかった。ただそれだけなのに。ご飯を口に入れた黒川(瑞樹)の目から黒川の流した涙が一筋の川となって流れた。 その日から黒川は家族の日常を見ることが少しずつ楽しくなっていた。この家族を見ることで自分のなくした家族との思い出を埋められるような気がした。そして、何より何年も同じ屋根の下で暮らした身として、彼らのことが嫌いではなくなっていた。しかし、時が流れるにつれ、黒川の中にあった微かな罪悪感がどんどん大きくなっていった。  もう耐えられない。  十一年経つころには黒川はそう思い始めていた。    そして、その日がやってきた。  二千四十八年、六月八日、その日、黒川(瑞樹)はいつも通り学校に向かい、いつも通り学校で勉学に励み、友人と談笑し、部活をして帰ろうとしていた。珍しく部活の練習が長引き一人で走って帰った。その時、ぞっとするような、嘗め回されるような視線を黒川は感じた。  それが誰の視線なのか、黒川にはすぐに分かった。  あれは俺だ。そうだ。今日は俺がこの子を殺した日だ。  怖い。黒川(瑞樹)の体が小刻みに震える。今まで黒川は感じたことのない感情がこみ上げてくるのを感じた。いつ死んでもいいと思っていた。黒川が生きてきた世界は常に死と隣り合わせだった。しかし、水沢瑞樹の世界は死などまるで感じさせない平和な世界だった。そして、その世界には心のどこで欲していた家族がいる。許されるならあの家族ともう少し一緒にいたい。黒川の心の中はその想いでいっぱいだった。   だがそんなことは許されない。この幸せが理解できるようになった黒川は自身の罪深さも理解し始めていた。俺の殺してきた人たちには見えないけど繋がっている人たちがいた。瑞樹の家族もその中にいた。  これが更生刑か・・・・・この子が殺されれば俺は元の世界に戻れるのだろうか?何もない世界に・・・・・黒川は自身の中に流れ出す感情に名前を付けられないでいた。俺は死にたくない。でも、あの家族とも離れたくない。でも、もう罪悪感で一緒にいるのは辛い。
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