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「アラン、レイ。これから宜しくお願い致します」
動揺していることに気づかれないよう、エリー王女は満面の微笑みを作った。
しかし、胸は激しく鳴り響き、足は床にくっついてしまったように動けない。
このような気持ちになること自体初めてで、エリー王女はどうして良いかわからなくなってしまった。もう一度マーサの助けを得ようと振り返るが、扉が丁度閉まるところで、頭を下げたマーサと侍女たちが扉の向こう側へと消えていく。
ゴォン。と鳴り響く扉の音に、殴られたかのような強い衝撃を受けた。
この広い場所で完全に一人になってしまったように思えて、目の前の世界が大きく歪む。
頼みの綱のマーサがいなくなり、頭の中は真っ白だ。エリー王女はただ立ち尽くすしかなかった。
必死で考えを巡らせていると、父であるシトラル国王の顔が頭をよぎった。
何をすれば良いのかを思い出し、大きく一呼吸置いてから前に向き直る。
「ではアラン、レイ。陛下の元へ案内していただけますか」
「はい」
アランが座ったまま一度礼をし、立ち上がるとその背の高さにまた心臓が跳ねた。父ならともかく、男性に見下ろされるのはなんだか落ち着かない。
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