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アトラス城内の後宮――――。
ここは亡きレナ王妃のために作られた場所であったが、今は一人娘であるエリー王女が住まう場所である。エリー王女は未だにこの後宮から出たことがない。そのため、会えるのは女官や侍女、そして父であるシトラル国王のみだった。
その後宮内で愛らしい少女がまっすぐと伸びた美しい髪をなびかせ、嬉しそうにとある部屋へと入っていく。
「マーサ、今日はこんなに沢山の新しい本が入ったのですね」
真新しい本を前に、くりくりとした大きな瞳を輝かせた。彼女がエリー王女である。
部屋には入りきらないほどの本が積まれており、エリー王女は暇さえあればその部屋にいた。この部屋には夢と希望が詰まっている。本を読めば読むほど、エリー王女の胸はときめき、外の世界に憧れを抱いていった。
「早く十八歳の誕生日がこないかしら」
小柄で線の細いエリー王女には重いであろう大きくて分厚い本を、愛しい人を抱きしめるかのように抱え、女官であるマーサにそう伝えた。このセリフは日常の一部と化していた。マーサはそれでも笑顔で「そうですね」と優しく応えてくれるのだった。
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