第001話 期待と不安

4/4
172人が本棚に入れています
本棚に追加
/796ページ
 ◇ 「え? マーサは一緒に行かないのですか?」  それを聞かされたのは十八歳を迎えた当日の早朝だった。 「大丈夫です。後宮を出た後は、側近が二名お付きになると聞いております。その者たちがエリー様をお支えしてくださいます」 「そんな! 嫌です……私はマーサが良いです……。私……初めてお会いする方を信頼することなんて……出来ないと思います……」  初めて聞く事実に眉を寄せ、瞳を潤ませた。エリー王女が不安になるであろうと分かっていたため、マーサはギリギリまで言わないでおいたのだ。 「勿体無いお言葉、ありがとうございます。ですが、忠誠を誓い選ばれた者のみが王の命により側近となれるのです。必ずエリー様のお力となりましょう」  初夏の香りを運ぶ爽やかな風も、キラキラ輝く太陽も急に心地良いものではなくなった。未知なる所へたった一人で飛び込む勇気はエリー王女にはなかったからだ。エリー王女は何かを訴えるようにじっとマーサを見つめた。  そこへ慌しく侍女達が部屋にやってきて、有無も言わさず身支度を整え始める。艶やかな長い髪をとかし、美しいドレスを身に纏う。しかしエリー王女の心は晴れなかった。 「エリー様は笑顔がとても素敵なのですから、笑顔を見せてください」  鏡の前に立つエリー王女は未だに不安な表情をしていたため、マーサは鏡越しに笑顔でそう伝えた。エリー王女は何か考えている様子だったが、小さく笑顔を作った。 「そうです。世界で一番美しいプリンセスですよ」 「ありがとう、マーサ……」  今度は大きく息を吸い込み、エリー王女は呼吸を整える。その様子を見つめるマーサは、これから起こるであろう苦難を心配しつつも、微笑みを絶やさなかった。image=512864034.jpg
/796ページ

最初のコメントを投稿しよう!