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無言で、駅までの道を進む。
俺は、綱渡りをしている彼女の左斜め後ろを歩いていた。
「なあ、タッキーよ」
駅の明かりが見えたところで、和田が呟くように言った。
「養成所はもう行かないのか?」
「な、」
そんな事、覚えてたんだ。と、思った。
みんなで進路の話をしていた時、なんとなくチラッと一度だけ、そんなことを言ったことがある。だけど、彼女にそれを伝えたのはその一度きりだ。
「い、行かないけど…」
「何で?」
「あんなの、一握りの人間が有名になれんだよ、俺には無理。それに親が反対してるし」
「…なんだそれ、」
ーーーほんとに、つまんない奴。
そう言い放つと、彼女は縁石からピョンっと飛び降りた。
「…帰るわ、」
「は?」
「じゃあな、」
何だよ、何なんだよソレ。
ーーーお前に何が解るんだよ!
気が付けば、大好きな女の子に、そんな強い言葉を浴びせていた。
彼女は、目を見開いた。
だけど、一度吐き出してしまったから、次の言葉がどんどん出て来てしまう。
「お前らは頭が良くて、順調に大学行って…まあ哀川はバカだけど…、立派に就職して、職場に居場所があって、やり甲斐があって、そりゃー人生楽しいだろうよ!俺だってやりてーことあるよ、だけど現実問題無理だろ?そんな人生の大博打して、失敗でもしてみろ?どーやって再就職すんだよ、どーやって家族養うんだよ!まあ俺なんかに嫁さんが出来るかも疑わしいけどな!」
全部言い切ったら、息が上がっていた。
こんな事、誰にも言った事はない。親友の、哀川や間宮にもだ。それをよりによって、一番大好きな人に、こんなにかっこ悪いことを言ってしまうなんて。
やっちまった、と思ったのに、彼女は意外にも笑っていた。面白くて笑っているのではない。なにか悪い事を思いついた時のような、したり顔だ。
「なーんだ、そんな事で悩んでたのか」
「…何だよ、」
「じゃあまだ夢は抱いてるんだな?」
「…だったら何だよ!」
ーーー私が、養ってやろうか?
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