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「あ、哀川、」 「…なに、」 「この前、見た、五十嵐さんと…下駄箱で…」 すると哀川は、問題を解く手を止めた。指先でクルクルと器用にペンを回す。 「あー…そう、」 「告白、されたの?」 ドキドキ、していた。 哀川に彼女が出来たらどうしよう。 そんなこと、思う権利無いのに。 「いや?連絡先訊かれただけ」 少し、ホッとした。 「そっ、そうなんだ…連絡取り合ってるの?」 「まあ、たまに」 「そ、そうなんだ…遊びに行ったりしてるの?」 「いや、まだ。誘われてはいるけど」 「付き合うの…?」 「まだ分かんね」 気になる。気になって仕方ない。去年は、そんな風に他の女の子と連絡取ったりしていなかった。 やっぱり、私のこと好きだったのかな、とか思ってしまう。だって私とは毎日連絡取ってたし、毎日一緒に居たから。 ま、フラれたし、そんなわけ無いんだけど。 そう思ったら、決定打を打ち込まれた。 「つーか何?お前に関係ある?」 サッと血の気が引いたような気がした。手が震える。 「な、無いけど…」 声も、震えた。 無いよ、関係無い。だって私、フラれてるもんね。哀川の恋愛に口出しする権利なんて無い。 哀川が、私のことを好きだったなんて。あり得ない。 「お前、間宮と上手くいってんだろ?人のこと詮索してねえで自分の心配してろよ」 突き放すような、その台詞。泣き出しそうになったタイミングで、間宮くんが帰って来た。 「ちゃんとやってる?」 「やってるよ、」 助かった。 「どうぞ、」 オレンジジュースを受け取った。チラリと見ると、哀川の手にはミルクティー。 たまに、なんとなく飲みたくなる。そういう時の為に、哀川はいつもミルクティーを買ってくれていた。ひと口ちょうだいって言ったら、笑顔でくれてたっけ。今思えば、アレ、間接キスだ。 「…なに、こっちが良いの?」 訊かれて、我に返った。ボーッと、見詰めてしまっていた。 「…え、あ、うん…」 「相変わらず気分屋だな」 差し出される、ミルクティー。 哀川、何でミルクティーにしたんだろ。まさか、私のため?まさか、まさかね。 間宮くんのお陰で、哀川も私も、補講を免れた。
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