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修学旅行、夜のビーチ。 俺を呼び出した五十嵐は、こう言った。 「私、年末に引っ越すの、」 それは、9月の頭に決まったこと。まだ心の整理は付いていないらしい。 俺への、気持ちも。 「どうしても、好きなの。諦められないーーー…哀川くんに、好きな人が居るのは分かってる。だから付き合って、なんて言わないから…週末に遊びに行ったりとか…思い出を、貰えませんか…?」 五十嵐の姿が、今の俺と重なった。 こんなに好きで居てくれているのに、報われない。しかも、年末には離れ離れだ。 手を繋いだり、キスしたり、恋人っぽい事は出来ないけど。最後に思い出を作ってあげることくらい、俺にだって出来る。 「分かった、良いよ」 「ほ、ほんとに…?」 彼女は瞳を揺らして、口元を両手で覆った。頬を、涙が伝う。 「終業式まで、期間限定。恋人っぽいことはしないけど、周りには付き合ってるって事にしよう。出来る限り、五十嵐と一緒に居るよ」 付き合ってないのに一緒に居たら、何か余計なことを言われそうだから。それに、五十嵐のことを彼女だと思ったら、もっと大切に出来そうな気がする。 「ありがとう、ホントにありがとう…」 「いや、こちらこそ。そんなに好きになってくれてありがとう」 これが、あの日の真実。 だから俺は、五十嵐とキスなんてしていない。
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