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その件に関しては、俺はなるほど、意見の多様性というものは視座を変えるのに重要であるなと自己を反省したのだった。
教室に入ると、高校生らしくみながJPOPの歌詞で盛り上っていた。
「よう!桂おはよう!」
さわやかな微笑で集団の真ん中にいた大久保敏光が軽く手を上げた。
「おはよう」
俺が自席にカバンを置くと、大久保がこちらへ来いと手招きした。
「以前より議題にあがっていた、人間が「トリセツ」を自分自身で付録につけるという歌詞についてなんだが・・・」
「歌詞の内容もさることながら、例えば、安全な機械類に関してはトリセツを読まず
フィーリングやユーザーインターフェースで使用するという意見が多かったんだ」
「おう」おれは、空いている椅子を移動させながら答えた。
身長の高い西郷正之助が割って入った。
「例えばだ。携帯機器を使用するとき、俺の場合はトリセツは読まない。しかし、俺たちの進路の先に重火器類を取り扱う、もしくは飛行機などを扱う場合、トリセツどころかマニュアルに沿った行動、さらに研修が必要になるだろう?つまり、安全なものにはトリセツはいらないが
危険なものにはトリセツが必要なのでは?という仮説を立てたんだ」
「うん」
「つまり、自分自身にトリセツを着けて挨拶してくるこの女性は、大変に危険な可能性があるということだ」
「まぁ、危険なものは魅力も兼ね備えている事が往々にしてあるものだが・・」
「う、うん。そこは否定しない」
大久保の次なる説は、
「カラーコンタクト等に関わらず、繁殖年齢に達してなお、黒目がでかい生物は凶暴」
だった。
西郷の持ち出してきたJPOP考察は
「終電間際に、君の欲しがった椅子を買い、なおかつ電車の中で椅子が凶器になる可能性も考えずに幸せに笑う男は、周囲の迷惑も、帰宅後の配偶者の気持ちも考えていないから、いつまでも手を繋いでいられなかったのではないか?」だった。
俺は、二人に会えてこんなに嬉しいのに、当たり前のようにチャイムが鳴って着席したのが悲しいんだ。
いや、授業は大切だ。
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