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“コン‥コン‥‥”
「失礼します。部長、警察の方がお見えです‥‥。」
女子社員が、孝彦達を連れて個室の前へと案内する。
「先日は、どうも‥‥。」
挨拶じみた会釈をすると、孝彦は相手の返事も待たずに部屋の中へと入り込んでいた。
「こちらこそ直属の部下の事で、刑事さん達にも、いろいろと御気遣い頂いて‥。」
丁寧な口調で、中央の客席ソファへと招き入れている。
殺された田中僚の直属の上司である西崎啓介(にしざき けいすけ)、42才。
海外の製薬事業関連の専属として引き抜かれて来た男のようで、各国を数年単位で点々とする傍ら、この製薬会社においても、かなりのヤリ手として実績をあげている。
がっしりとした体格に、身に付けているワイシャツがキチッと新品同様の清潔さで整えられている様相が、いまだ独身生活である事を一層印象づけているかのようだ。
「それで‥‥本日は‥‥?」
孝彦達の前へと腰を下ろすと、西崎は先程の女子社員が手渡した名刺の束を手にしていた。
「実は昨夜、容疑者である森月緋冴が病院を抜け出して、行方が分からなくなっているんですよ。」
孝彦の言葉に、西崎の視線が一瞬、うつむき様に二人へと注がれた。
「行方を探しているのはもちろんですが、今日こちらへ伺ったのは、田中僚さんの件に関して、他にもいろいろ聞きたい事がありまして。」
「仕事の事‥‥ですか‥‥。」
西崎はしばらく無言のままに、言葉を躊躇しているかのようだ。
「これは、いずれ発覚する事でしょうから‥‥‥刑事さん達には先にお話しておきます。今は、まだ会社内部で調査中なんですが‥‥‥。」
さっきとは打って変わって厳しい顔付きを見せる西崎。
「田中が、この営業部署へ来てからの2年間の間に、120億円近い会社の運用金が用途不明で無くなっているんです。営業先では突発的な取引も多い。そういった金銭管理は、私の責任下のもとにあるんですが、最近は私も海外出張が多くなって、その間は彼に全てを一任していました。病院関係者の間では、一番信頼のおける男だったし、大口な取引については、引き抜く以前の会社に勤めている時から充分に実績を持っていましたから‥‥。それなのに‥‥密かに会社の金に手を付けていたようでして。」
「田中僚が使い込んだその当人だと、証拠はあるんですか?」
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