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瑠依には、それ以上の言葉が続かない。
なぜなら、少女の淋しげな思いが、否応無く感じ取れたからである。
そんな折、突然にして瑠依のケイタイが鳴った。
着信不明の相手の電話番号を目にしながらも、何気に受信を取った相手と会話を続けていると、再び少女が言葉を口にする。
<お父さんの所へ行きたい‥‥。お姉さん、私のお父さんを助けてくれる?>
次の瞬間、その言葉に瑠依はなぜか素直に従っていた。
まるで何か目に見えない力に突き動かされてでもいるかのように‥‥。
それから一体、どれ程の時がたったのだろう、突然我に返ると、いつの間にかバイクで道路を一気に走り抜けているではないか。
どこをどう走り続けたのか?
もうろうとした意識の中、やがて人気の無い古びた倉庫へと辿り着いた。
どうして自分は、こんな場所へとやって来たのかさえもわからない。
不安な思いに駆られる瑠依の目の前へと、再び現れた少女が倉庫の中へと招き入れるかのように彼女の手を取って歩き出していた。
月明りさえ届かない暗闇の中、ようやく見慣れた視界が、エンジンをかけたまま止まっている二台の車の存在を捉えたのだ。
ようやくハッキリし始めた現実感を携えながら、一台の車の側で立ち止まる。
「あの‥‥。すみません、ちょっとお話が‥‥。」
瑠依の突然の声に驚いたのか、後部座席に乗っていた一人の中年男性が車窓から視線を向けた。
何かにひどくおののいたかのように、彼は一瞬、もう一台の車の主へと眼差しを向ける。
ヘッドライトの明りで、瑠依には、この男性が相対している人物の顔は分からない。
「あの‥‥お父さんですか‥‥?」
「お父‥さん‥‥?」
「ええ、この少女のお父さん‥‥でしょ?」
ふと傍らに向けた視線が、瑠依の口を一瞬にして塞ぐ。
ついさっきまで一緒に居た女の子が消えている。
「一体、何を言っているんだね、君は‥‥。」
「だって、長い黒髪の十代くらいの女の子が、お父さんを助けて欲しいって、ここまで一緒に‥‥。」
その言葉に、男の顔色は見る見る青冷めてゆくかのようだ。
「冗談はよしてくれ‥‥。」
向かい合っていた、顔も見せない相手の車は、早々にその場から走り去って行く。
そして、この男の車も逃げ去るかのようにアクセルを踏み込んでいた。
言い尽くすヒマもなく、瑠依はたった一人、闇の中へと取り残されたのである。
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