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1 心残りのある少女の話
俺の心地よい睡眠を邪魔するのは、いつだって同じ音。
大音量で響く、重低音とデスボイス。ああ…スマホのスヌーズ音が恋しい…あの子はいつだって、俺を優しく起こしてくれたんだ…。そんな現実逃避をしていても、音が止まる事は無い。
攻撃的な音と共に、がなり立てるボーカルが入り始めた辺りで限界になって、とうとう起き上がった俺は部屋を見回した。真ん中辺りに落ちているスマホの液晶が光り輝いて、そいつが指定された時間でなっているのが分かる。溜息をつきつつ立ち上がり、力いっぱいタップしてからこのスマホの持ち主である人物へ目を向ける。
そいつは吊られたハンモックの上で、いまだに安らかな寝息をたてていた。なんでこんな大音量で起きないんだよ。耳聞こえてないんじゃないか?睨み付けても寝ている相手には無意味なので、仕方なくバイトへ行く準備でも始めよう。
顔を洗って、歯磨いて、カロリーメイトに似た固形の栄養補助食を咥えながらタブレットの電源を入れた。特に腹が減らないから、物を食べる事は必要ないんだけど、どうも朝はちゃんとご飯を食べなきゃ気が済まない。これは生前の癖のようなもんだから仕方ない。
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